選定対象期間と自分が実際に読了した時期とが微妙にズレていたので、吉田修一『悪人』と小池真理子『望みは何かと訊かれたら』を落とさざるを得なかったのですが、今年も自分なりに日本の現代小説を楽しみました。
伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』は、首相暗殺犯にでっち上げられた男の逃走劇。管理された社会の怖さを感じさせつつも、作者の思いは人間性の回復という主題に向かっていきます。恩田陸『きのうの世界』も逃走をテーマにしたミステリーです。一見普通の会社員が失踪してからのその後を追っていきますが、細かい章立てごとに語り手が入れ替わる巧みな構成によって物語が重層的になっていく点など、さすが恩田ワールド全開といったところです。
さて、そんな二つの<逃走もの>とは対照的に現状を打破すべく<疾走>を瑞々しく描き切ったのが、森絵都『ラン』です。自分という殻を抜け出し、人々との結び目を取り戻していく若い女性主人公の姿に、陽光が微笑んでいます。