フィクションに「あるある」を求めない、というのが私の心情です。物語を自分に引き寄せるのではなくて、自分の方から行く。そのくらいの謙虚な気持ちで楽しんだほうが、絶対に小説は楽しめると思うのです。私はミステリーを中心に書評活動を行っています。「ありえねー!」が賞賛されるジャンル文学なんですね、ミステリーというのは。ここで紹介した5作は「ありえねー!」が炸裂したものばかりです。『新世界より』は完全なSF作品ですが、これはむしろ例外。ミステリーの作法では、日常を描いても、作者の企み次第でありえない非日常を現出させることが可能なのです。新人賞候補で挙げた『赤めだか』も、立川談志というありえない人物を描いた作品です。『ザ・ロード』だけはちょっと違うか。ありえないような逆境に置かれた父子が、それでもまっとうに生きようとする物語です。気高く、温かい。できれば、家族の顔を思い浮かべながら読んでもらいたいと思います。