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『ボート』ナム・リー

いま欧米でもっとも期待される新人、
ナム・リーのデビュー《無国籍》短篇集『ボート』

 【内容】

たった一人難民ボートに乗り込んだ少女の極限状態の十二日間。重い荷を背負って生きてきた父への切ない愛情。そしてヒロシマやコロンビアで、ふいに断ち切られてゆくいくつもの命。自身も生後三ヶ月でオーストラリアに渡ったヴェトナム人作家による、注目のデビュー短篇集。プッシュカート賞、ディラン・トマス賞ほか多数受賞!

「父母に抱かれ、海を渡った。」というのは、ナム・リーの幼児体験であり、その後の人生を決定づける出自に違いないが、かといって『ボート』において、オーストラリアを舞台にそこで生きる異邦人の物語が綴られる、のではまったくない。最初の一篇「愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲」の舞台がアメリカで、まずは意表をつく。ナム・リー自身と重なるヴェトナム人二世の若い作家が、父親・家族の歴史を小説に描こうとして、結果、父親から拒否されるのだが、これはナム・リーが二世としての単純な物語は書かないということを象徴した短篇として、冒頭に相応しい一篇だ。次の「カルタヘナ」の舞台は絶望と暴力が支配する国、なんとコロンビア。その次はニュー・ヨーク、オーストラリア、日本!、イラン!!――ナム・リーの恐るべきイマジネーションが冴える、この邦訳デビュー短篇集は、まさにめくるめく無国籍小説。現代に生きる人間たちの苦悩が鮮やかに描かれた、素晴らしい作品集です。(BJ塚本)

新潮クレスト・ブックス『ボート』
著 ナム・リー 2010年1月29日発売
定価 2415円(税込) 四六判変型 359頁 新潮社

 【著】ナム・リー

1978年、ヴェトナム南部のラックザーに生まれる。79年、生後3ヶ月で、両親とともにボートピープルとしてオーストラリアに渡る。メルボルン大学卒業。大手法律事務所勤務を経て、渡米。アイオワ大学ライターズ・ワークショップに学ぶ。2007年プッシュカート賞、08年ディラン・トマス賞、09年オーストラリア・プライム・ミニスター文学賞、メルボルン賞ほか多数受賞。NYでハーヴァード・レビューの文芸記者を務めるとともに、09年にはライター・イン・レジデンスとして英国イースト・アングリア大学に滞在。現在、英語圏でもっとも期待されている新人作家のひとり。

平松洋子 Hiramatsu Yoko

硬さを残していた洋梨が、なにかを振り切ったかのように瑞々しい香気を放ち始める瞬間がある。冒頭の一篇、私はさっそく芳香の兆しを受け取った。アイオワ。テヘラン。ニューヨーク。ヒロシマ……緻密な想像力によって構築された物語世界にはベトナム生まれの若い作家の実験精神が横溢し、洋梨の香りとともに展開する位相空間さながら。最終篇、東南アジア沖に漕ぎだした一艘の難民ボートは「死者の海域」へ入ってゆく。波間で遭遇するあの匂いを、飛沫を、歌声を、そして痛みを、私は決して忘れることができないだろう。

TLS タイムズ文芸付録

綿密な想像力を細部にいたるまで働かせて、はるかな世界と人とをありありと実感させる。才能と言うしかない。

San Francisco Chronicle サンフランシスコ・クロニクル

聞き慣れない作家だろうか? これから先、どれほど耳にすることになるかが楽しみだ。これほど多様な七篇を一人の作家が書いたとは信じがたいが、共通点もある。どの主人公も、逆境のなか自分では気づかない強さを見せるのだ。


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