原書Out of Mao's Shadowを読んでいたので邦訳が出るのを楽しみにしていたのだが、正直この翻訳にはがっかり。何度読み返しても文意がとれないので、原書にあたってはじめて分かることもしばしばだった。はっきり言って日本語の体をなしていない。著者フィリップ・パンは、ワシントンポスト北京特派員として8年間中国を取材。毛沢東が残した歴史の闇や一党支配体制のさまざまな矛盾と課題に真剣に向き合い格闘する人々を精力的に取材し、現代中国の真実をみごとなまでに描ききっている。日本の中国専門を自称するジャーナリストらには、決して真似のできない調査報道であり、現代中国の深層を抉る最高のドキュメンタリー作品となっているのは間違いない。克服困難なさまざまな課題を抱えていても、著者が情熱を持って取り上げているような人物がいる限り、中国にはまだ希望があると思わせる。それにしても、そうしたせっかくの作品もこの日本語訳では多くの読者を得られないのではないかと、残念に思う。