執筆期間に7年をかけたという本書が全米で出版されて早や2年。じれじれと待っていた翻訳書は、なんと原稿用紙換算2500枚ぶん! 訳者の小川高義さんには感謝感謝だ。
しかし長かった待ち時間も、読むのに費やすことになる時間も、上下巻で1100頁という紙の量も、すべては必然でありこの感動のためだったと読後に大満足できるのが、「現代のディケンズ」と称されるアーヴィングの、『また会う日まで』である。前作『第四の手』で、「あれれ、アーヴィングどうしちゃったの」と思っていた読者のみなさん。今回は大丈夫。安心して、アーヴィング節全開のこの大きな物語の流れに、身をまかせてください。
本書は、簡単にまとめれば、父を知らずに育ったジャック・バーンズという男の、4歳から38歳までの物語である。上下巻あわせて、全5部構成となっている。
就学前のジャックが、名うての刺青師である母とともに、彼らを捨てた教会オルガニストにして刺青マニアの父親を探して北欧の港町を歴訪する第Ⅰ部に始まり、5歳にして元女子校に入学、生涯の友となる7つ年上のエマと出会う第Ⅱ部。演劇に目覚め、年上の女たちばかりに惹かれる青年期を経て、ハンサムでモテモテのハリウッド俳優へ成り上がる第Ⅲ部。ある大きなきっかけからひとりで北欧を再訪、自分の薄れかけた記憶と父親への想いを辿りなおす旅に出る第Ⅳ部・第Ⅴ部へと、縷々ストーリーは時系列で展開される。
このとき、時系列で語られる点がひとつのポイントであり、物語構成上の仕掛けは第Ⅳ部、つまり下巻でやってくる。なぜ、ジャックの成長のさまを、読者は最初からたどらなくてはいけなかったのか――。その答えは下巻に用意されているのだ。
そこで未読の方には、上下巻の一括購入と、たとえ上巻の途中でダレても、下巻に入るまでは辛抱して読みすすめることを強くおススメしたい。アクの強いキャラクターのオンパレード、脱力系のユーモアの数々、加速度的に進行する予想外の展開により、あとは一気呵成に読みすすめてしまうのに間違いないのだから。
本作には、著者自身の自伝的要素が色濃く反映されているとのことだが――事実、アーヴィングは父を知らずに育ったし、『サイダーハウス・ルール』でアカデミー脚本賞を獲ったことで少しはハリウッドの裏側も見てきただろうけれど――そんな舞台裏を知らずとも、父親の不在がつねに影を落としたジャックの生きる道のりをゆっくりと読み、彼に伴走するうちに、私たち読者も、語り手とともに笑い、憤慨し、驚愕し、泣き、喜ぶことができるのだ。
原題は「Until I Find You」。なみの“自分探し”とはひと味もふた味ちがう、完璧な“あなた探し”の物語を、ぜひとも存分に楽しんでください。