「海無し県」で育った筆者は、海に対して大きな憧れを感じている。実際の海だけでなく、テレビに映る海の映像にさえも引きつけられ、書き物をしている手を止めて見入ってしまうほどだ。
そんな筆者が紹介する絵本は、海が舞台。
ある海のそこに、ダイバーが利用するポストがある。ダイバーたちが、その海にもぐった記念にはがきを書いて投函すると、郵便屋さんが回収して配達してくれるのだ。
夏の間はポストの利用も多いが、冬はだれも投函しない。ひとりぼっちのポストに、タコの夫婦が友だちになってあげる。
やがて、夫婦は利用のないポストの中に、たまごを生み、たくさんの子ダコが生れる。
さびしかったポストのまわりがにぎやかになり、ポストは子ダコに字までおしえてあげるようになった。
ある日、タコの夫婦が留守にした時に嵐がやってくる。子ダコを守るため、ポストは体の中に入れるものの、それが仇になってしまう。
強い波で倒されたひょうしに、おなかのとびらが歪んであかなくなっていたのだ。嵐が過ぎても、外に出られない子ダコたち。そこでポストが考えたのは、子ダコにスミで書かせた救助信号「SOS」を発信させること。おかげで子ダコたちは海の仲間たちに救出されるというお話。
海底に設けられた実在するダイバー用ポストがヒントになった作品であるが、ポストと海の生物タコとの出会いが楽しい。しかもそのポストが今ではほとんど見られなくなった円筒形の旧式の型というのが、なつかしさを感じる。
タコのスミと文字が伏線になった救出劇が、楽しさの中にハラハラ感をはらみ、ストーリーを盛り上げてくれる。
見開き一面にひろがる、子ダコはいったい何匹いるのだろうか? 子どもに読み聞かせする時に、いっしょに数えてみるのもおもしろいかもしれない。
美しい色づかいの絵で描かれたポストとタコの友情物語は、子どもから大人まで引き付けるであろう。