この物語は、5人の男子学生と2人の女子高校生という7人が、富士山麓の樹海の奥深く、大型ヨットが浮かび、亡霊がさまよっているという「都市伝説」の探索に出掛けて行くところからはじまります。やがて10年後、女優、作家、キャスター、刑事、実業家、細菌学者、宇宙飛行士になった7人に、10年の潜伏期間を経て異変が起こるという展開。そして、その裏には、国際バイオテロ計画があるという設定です。
ところで、私が久々に「マタンゴ」に出会ったのは、一昨年のことでした。
CATVの日本映画専門チャンネルに、「私が好きな日本映画」という番組があって、11月のゲストはJ-WAVEのナビゲーターなどをつとめるクリス・ペプラー氏。彼が選んだ映画が、驚いたことに、なんと「マタンゴ」だったのであります。監督は、あの名作「ゴジラ」の本多猪四郎。そして、特技監督が円谷英二。私は、嬉しくなり、さっそく録画をし、デジタル・リマスター版で40数年振りにこの映画を観たのでありました。
「マタンゴ」とは、それを食べた人間が醜いキノコの怪物になってしまう、恐怖のキノコの名前。映画では、大型ヨットで遭難した7人の男女がたどり着いた南海の孤島に密生しているという設定。食べるものが底を突き、やがて、このキノコに、ひとり、またひとりと手を出し、それを食べた人間からキノコの怪物「マタンゴ」に変身していくという物語。原水爆実験がもたらした悲劇というバックグランドを持ち、人間のエゴを鋭く抉った、異質の怪物映画でした。
この映画を観たときの記憶を、私はDVDを観た後、ブログにこんな風に書いております。
私がこの映画を封切館で観たのは15歳の時。他の東宝の特撮ものと同じつもりで出掛けていったのですが、そのあまりの異質さにショックを受けて帰って来たのを、今でも、はっきりと覚えています。封切り日は、昭和38年8月11日ということ。そう、そう、この映画を観た日は、確かに夏休みの暑い日でした。暗い映画館を出た後、カッと照りつける夏の陽射しを受けクラクラっと来たのは、暑さのせいばかりではなかったのかも知れません。と。
実は、この「マタンゴ 最後の逆襲」の著者、吉村達也氏も、自身のエッセイの中で、小学校6年生の夏に見て文字どおり震え上がった映画である。と書いていることを、この本の「あとがき」で知りました。ですから、この著作は、半世紀ほど前の怪物映画「マタンゴ」の、オマージュ作品なのであります。
さて、この小説での「マタンゴ」は、食べたことでキノコの細菌に感染するのではなく、ばらまかれた胞子による空気感染でキノコ怪物「マタンゴ」になるというもの。それが、作中では、こんな風に描かれています。
「キノコは繁殖のために胞子を空中にばらまく。それを吸い込んだ結果、体内にマタンゴの菌糸体を繁殖させることになり、やがてキノコ状の腫瘍を皮膚に形作ることになった。だから十年前のぼくたちも、樹海の中に入っていったときに、マタンゴの胞子を吸い込んだ可能性が高い」といった具合に。
そして、更に、この菌は、経口感染、空気感染。体液に乗って宿主の全身に流れていきながら、体組織を分解して菌糸を増やしていき、最終的には菌糸の増殖によって宿主の増殖機能を停止させ、死に至らしめる。宿主が死ぬと、ますます菌糸の増殖は加速し、その体内を菌糸で完全に乗っ取った後、頭部や背中を突き破って、キノコの形で外に出て来る。と、マタンゴ菌の恐ろしさが語られていくのです。
本書では、7人の主人公が、次々に、この「マタンゴ」に変身していく恐怖、その「マタンゴ」を細菌兵器として利用しようとする国際テロ組織の陰謀、そして、国家の対応。この辺りの入り組んだストーリーが小気味のいいテンポで展開され、物語は宇宙にまで広がっていきます。ホント、読みはじめたら一気に読んでしまわねばいられない、抜群のエンターテーメント・ホラー作品です。
本作の解説を書いている文芸評論家・縄田一男氏に、「この面白さは尋常ではない」と言わせしめた、この「マタンゴ 最後の逆襲」。さて、今度は、誰が映画にするのでしょうか?