自身の取材フィールドが商業・ビジネス分野なので、取材前に関連本は読んでいくものの、ビジネス書をいそいそと自らの欲求で買うということは少なく、怠惰かな…とも思うような状態でもあるが、今回紹介する本は、本屋で見つけてすぐに手にとった。
同世代の等身大の女性が活躍しているまぶしさに吸い寄せられたとでもいうべきか。ビジネス書の売り場でぴかっと光っている(ように私には見えた)。
本書ではだらだらと残業することが、いかに会社にも自分にもデメリットをもたらしているかを、そして仕事とプライベートを両立させて相乗効果的に結果を出し、自分の人生を豊かにしていくことが大事かを説き、時間にメリハリをつけ「定時で帰る=定められた労働時間でやりきるために仕事を工夫する」手法を、彼女の実体験を踏まえながら提言している。
著者である小室淑恵さんは大学卒業後、資生堂を経て、仕事と生活の充実を図る“ワーク・ライフバランス”を世の中に広めようと「株式会社ワーク・ライフバランス」を興した女性起業家である。女性の育児休業者に限らず、男性の育児休業者、介護休業者、うつ病などでの休業者が職場にスムーズに復帰することをサポートする仕組み「armo(アルモ)」を開発し、これが多くの企業で採用され、全国でも精力的に講演活動を行っている。
私が小室さんを知ったのは、友人が彼女の講演を勉強会で聞いて、興奮気味に語ってきたことが発端であった。その大きなポイントとしては、「とてもきれいな人でびっくりした(さすが資生堂出身)」という美貌と、数値データを活用しながらの話の仕方が非常に説得力が高く、かつ仕事や世の中に対する情熱と論理性が絶妙のバランスで、正直“こんな人がいたのか”と驚いた…と。
それを聞いて私も「へぇ…そんな人がいるんだ、すごいね…」とウンウンと聞いていたら、「…あれ?もしかしたらあなたと一緒の年じゃない?…確か大学も一緒だと思うよ」と言うので、えっ、と言葉に詰まってしまった。プロフィールを見ると、まさに、そう。
能力の違いはあれども同学年で、同じ大学環境で過ごした、という共通項がありながら(たったそれだけといえばそれだけだが)、自らの意図と意思で道を切り開いている姿のまぶしさといったら…。私たちの通っていた女子大から、そんな人物が活躍しているなんて。時間は平等だが、活かし方の差をまじまじと考えてしまった。まさに志をもったタイムマネジメントの結果の差、か。
学生時代、実は起業なんてとんでもない、専業主婦願望が強かった小室さんは、当時上智大学教授であった猪口邦子氏の講演を聴き目から鱗が落ちたという。
仕事も生活も素敵に生きている姿に感銘を受けてアメリカに留学、ベビーシッターをしながら生計を立て、住み込み先のシングルマザーの女性が、育児とキャリアを両立している姿を目の当たりにし、育児と仕事の両立の支援がその後の起業の素となった。
資生堂に入社して二年目で社内のビジネスモデルコンテストで優勝。女性が働きやすい社会を実現するために、インターネットを利用した育児休業者の職場復帰支援サービス新規事業、wiwiw(ウィウィ)の立ち上げを行った小室さんだが、起業に向けて退職届を出した翌日に妊娠が発覚!
それ以来常にさまざまな役割・仕事を並行して進めていかざるを得なかった状況もあって「複数の仕事を並行して進めるのが効率的にすすめるコツ」「とくに女性は同時にいくつものことをすることができる人が多いので、同時並行術が効果的」だと説く。
能力のある一女性の前へ進むパワーと自らの道を切り開くエネルギーがとてもまぶしいばかり。マネジメントのスキル本だけれども、一女性の物語としても面白い。