日本では何十万頭もの犬や猫が保健所で処分されているという。ペットの避妊、去勢手術をせず、あげく生れてきた子犬や子猫を飼えないからと、もらい手がないからと、いとも簡単に捨ててしまう。生き延びたそれらの犬や猫が、また子を産んでしまう。人間の身勝手により生まれた不幸な犬・猫が、保健所で薬殺されつづけるのだ。
筆者はそんな状況を見過ごせず、捨て猫を見つけると保護している。そして里親を探すことを8年続けている。今まで保護した猫(子猫)は72匹。病気などで昇天した約1割の子たちをのぞいて、すべて里親を見つけてきた。子猫を保護すると毎回ながら、「必ずいい飼い主を探してあげるよ」という前向きな気持ちと「もし見つからなかったらどうしよう」という不安な気持ちが入り交じる。
これから紹介する本は、そんな気持ちを非常にうまく表現した、涙無しには読めないストーリーだ。
本書の主人公ちいちゃんは学校の帰り道に子猫が捨てられているのを見つけ、家に連れて帰る。
3年前にお父さんが亡くなり、ちいちゃんは、お母さんと慎ましく暮らしている。家はペット禁止のアパートだ。ちいちゃんは学校で、お母さんは職場で新しい飼い主を探しはじめる。里親がすぐに見つかると思ったのに、なかなか見つからない。ついには大家さんに発覚してしまい、1週間経って飼い手が見つからなければ、子猫は保健所行き、それが嫌ならアパートの退去を命じられる。
日に日に元気になり可愛くなる子猫。自分の運命も知らず、子猫はかぎっ子のちいちゃんが学校から帰ってくると玄関で「ちい!」と鳴いて出迎えくれる。
守ってあげたいのに、子どものちいちゃんにはあまりにも無力だ。ちいちゃんには、ポスターを配りながら「子猫をもらってください」ということしかできない。刻々と迫る「審判の日」に、ちいちゃんの心は張り裂けそうになる。
子猫の運命は、そしてちいちゃんの心はどうなってしまうのか……。結末は小さな読者のためにとっておくことにしよう。
本書は、小さな命の大切さ、その命を守ろうとする母と子のあたたかい心が、対象読者である小学校低学年の子どもたちへ十二分に伝わる作品だ。
毎頁に描かれている垂石眞子氏の絵もすばらしい。最終頁の絵が涙を誘う。
今年の夏休みには、ぜひ親子でいっしょに読んでほしい。
そして、不幸な犬や猫のことに思いを馳せていただければと思う。