遊園地はいくつになっても楽しいところだ。
そこに近づくと見えてくるのが観覧車。大きなその姿が見えてくると、わくわくしてゲートまで走り出したという思い出をお持ちの方も多いだろう。
筆者は小さいころから高いところが苦手で、観覧車はこわくて乗れなかった。でもゆっくり回る悠然とした姿は好きで、ベンチに座ってよくながめていたものだ。
これから紹介するのは、遊園地と観覧車が舞台のファンタジーだ。
ある遊園地。週に一度の休園日、警備員のおじさんはヒマでヒマで、居眠りをしている。そこに1匹のきつねが、観覧車に乗せてほしいとやってくる。
ヒマついでに乗せてやると、きつねはたいそう喜んで帰っていった。
次の休園日、今度はきつねが妹を連れてやってきた。「妹も観覧車にのせてあげてほしい」と。
でもおじさんは断る。妹きつねががっかりしているのを見ると、おじさんはかわいそうになり、また乗せてしまう。
もうこれっきりだから、ときつねにいいきかせたのに、その次の休園日、きつねはまたやってくる。くまやたぬき、うさぎにいのししと山のなかまたちを引き連れて。
さすがに「規則違反だから」とおじさんがことわると、「きつねはよくて、たぬきはだめなの?」とぶんむくれ。
みんなの勢いにおされて、観覧車に乗せるととってもうれしそうに帰っていった。
「もうぜったいのせないぞ」と決心したら、やつらは来ない。警備員のおじさんは、無意識のうちに動物たちが休園日にやってくることを楽しみにしていたのだ。
そして次の休園日、おじさんは動物たちの住んでいるという、きのこの形をした山に出かける。電車に乗って、バスに乗って歩いて歩いて……。
動物たちの観覧車に乗りたいという思いや断られた時の落胆した姿、そして乗れたときの喜びの様子が、たかすかずみ氏の絵とともに、ほのぼのと伝わってくる。
こんなかわいい動物といっしょなら、観覧車が苦手な筆者も乗ってみたい気がする。
夏休みに家族で遊園地へ遊びにいくことがあるだろう。お出かけのスケジュールが決まれば、ぜひ本書を子どもに読ませてほしい。
想像力豊かな子どもたちには、山の動物が観覧車をうらやましそうに見ているのを感じ取るかもしれない。そうしたら夏休みの観覧車が、きっと楽しい思い出となるだろう。
小学校低学年の子どもたちにおすすめの1冊である。