私にとって池部良というと、『青い山脈』や『雪国』、『暗夜行路』も良いのだけれど、やはり昭和残侠伝シリーズ。健さん演じる花田秀次郎の相方、風間重吉であります。その中で最高傑作と言われるのが『昭和残侠伝・死んで貰います』。ストーリーは、こんな感じです。
深川の料亭、「喜楽」の跡とり花田秀次郎(高倉健)は、ふとした事でやくざ渡世に身を沈め、服役後実家に戻るが喜楽は衰退模様。秀次郎は板前となり芸者の幾太郎(藤純子)と恋仲になるが、新興やくざの駒井組に料亭を狙われ権利書が奪われそうになる処を、寺田一家の叔父(中村竹弥)が単身乗り込み権利書は戻るが、叔父は駒井組に斬られ亡くなる。板前の風間重吉(池部良)はご恩返しの為、秀次郎とともに殴りこみをかける。
秀次郎「重さん、この喧嘩のケリは、俺に付けさせてやっておくんなさい。堅気のオメェさんを行かせる訳にゃいかねエ」
風間「秀次郎さん、あれから15年。見てやっておくんなさい(ドスに目を移す)ご恩返しの花道なんですヨ」
「ご一緒ねがいます」
義理と人情を 秤にかけりゃ
義理が重たい 男の世界
幼なじみの 観音様にゃ
俺の心は お見通し
背中(せな)で吠えてる 唐獅子牡丹~♪
抑えた演技で男っぽく風間重吉を演ずる、池部良。心底痺れたものであります。
当然、このエッセイ集にも「残侠伝余聞」という一項があり、こんな風に始まっています。
薄々の記憶を辿れば、昭和三十九年の、夏前だったと思う。
京都で仕事をしていた宿に、東映京都撮影所の筆頭ブロデューサー俊藤(しゅんどう)さんの来訪を受けた。
「どうでっしゃろな。東映の浮沈に関わりますし、ひとつ、高倉を男にしてやりたいということで、池部はんのお力をお惜りしたい、いうことなんですわ」と言う。初めて会う方で、丸坊主頭の、おっかない顔立ちをしている。東宝では見られない顔だ。東映と言えば、やくざ者が付きものだと思いこんでいたから、俊藤さんが、正座して、畳に両手をついての、ご丁寧な挨拶と申し入れも、上の空になって、ひたすら恐縮していたら、
「池部はん、高倉健いう、うちの役者、ご存知ないと思いますが」
「いえ、いえ、高倉健君の、名前は、よく知ってます」
「そうでっか。そらあ、嬉しいわ。実は、私が製作しまんのやけど、『昭和残侠伝』いうのをやりますのや。やくざもんの映画ですが、お互い縁のない男同士が義理と人情に挟まれて苦しむのやけど、最後には、正義のため、二人は命を捨てる、友情の話ですわ。ええでっせ。その一匹狼の男の一人を、演じて戴きたいんですわ。どうでっしゃろな」
もうワクワクしてしまいました。そして、本書を読んで知ったのですが、池部さんというのは、その係累が、それは豪華絢爛なのであります。父親は漫画家・洋画家の池部鈞。岡本一平と並んで社会戯評漫画の第一人者(池部は東京日日新聞、岡本は朝日新聞を舞台に活躍)で、母親は鞘町小町といわれた岡本一平の妹。その母親の父は書道家で、魯山人が弟子だったということです。伯父は岡本一平、伯母は岡本かの子、従兄が岡本太郎。安倍晋三元首相も遠縁にあたるのだそうです。