鈴木圭介はロックバンド、フラワーカンパニーズのボーカルである。身長は159センチ、来年40歳になる。『三十代の爆走』は、四年間にわたって「Juice」というフリーマガジンに毎月書いていたエッセイと、二十代の後半に「ロッキング・オン・ジャパン」に書いていた文章、書き下ろしの短い小説、それから最新のロング・インタビューからなっている。おまけに小学生のときの短い作文も載っているから、鈴木圭介の半生がここにつまっていることになる。
冒頭に書き下ろし小説「真夜中に会いましょう」がある。内容はこの本の直前に発売された彼らの最新作『たましいによろしく』の中の2曲目「この胸の中だけ」とほぼ同じ。この歌を元にして小説化したという。小学校のときには高かった鉄棒が大人になってもやはり高かった、というところは小説でも印象的。そう、圭介くんはよく自分の身長のことを話題にする。そのたびに自分以外の人も引き合いに出す。よく引き合いに出されるのはマイケル・J・フォックス、プリンス、遠藤ミチロウ。圭介くんは中学のときからミチロウのやっていたスターリンのファンだったようだ。
フラワーカンパニーズとは二度ライブイベントで一緒になったことがあったけど、圭介くんと個人的に話すようになったのは、二年前の一月に二人でライブをしてからだ。そのときのリハーサルや本番で圭介くんから直に聞いたこともこの本には出てくる。
「最近デパートなどのトイレでウォッシュレットつきのトイレが増えていて、それ自体は僕のようなデパートのトイレ大好き男にとってとても喜ばしいことなのだが、なぜか僕が入る個室のウォッシュレットの水勢がいつも最大なのである。」
これを読んでからぼくもウォッシュレットの勢いを意識するようになった。若い人たちは本当に細かいことに目がいく。目がいくだけではなく、それを感情のおもむくままに文章にする。圭介くんは文章を書くとき、話を自分の中で濾過したりはしないようだ。話し言葉と書き言葉を分けてはいない。限られた字数の中でなんとか話を落ちに持っていこうとする勢いはロックそのものである。圭介くんはステージでマイクを振り回すように、頭の中でペンを振り回す。印刷された文字は汗だくになって歌う圭介くんの声なのだ。
後半には二十代後半のエッセイが集められている。時間を遡って、若いときの圭介くんに出会ったみたいだ。まるで「この胸の中だけ」の歌のように、「おい、おっさん」なんていう声が飛んできそうだ。そんな勢いのある圭介くん、だけど話題にしていることは今とあまり変わらない。最後に小学生のときの短い作文が掲載されているけど、その内容も今とあまり変わらない。つまり圭介くんは子供のときから一貫して同じようなことに悩み、同じようなことに興味を持ってきた。そしてその疑問や悩みに自分で答えるように歌を書いてきた。圭介くんの歌はいろんな角度から飛んでくる圭介くんの直球なのだ。圭介くんは生きていくために歌を書いている。
歌は人間を裸にする。裸になるために歌を歌う。この『三十代の爆走』は、鈴木圭介が成長するために脱ぎ捨ててきた服の回収箱だ。だからここに収まっている文章は鈴木圭介のサイズしかない。なのにそれが読者にもぴったりとあてはまる。魂のサイズにはSもLもないのだろう。これはフラワーカンパニーズのボーカリスト、鈴木圭介のソロライブだ。だから彼らのアルバム『たましいによろしく』とセットで読むことを勧める。