四年前に糖尿病の診断を受けて、それ以来「本当は」食事制限をしなければならない杉江松恋です。
糖尿病というのは膵臓が弱って本来の機能を果たしにくくなる病気なのだが、厄介なことに完治することがない。それこそ一生もので、悪くならないように体をいたわりながら過ごしていかなければならないのである。したがって大事なのは生活改善。適度な運動と食事による適切な栄養補給で、身体の調子を良好に保つことが必要だ。ここしばらくサボり気味だったのだが、もうすぐ新年度だから心機一転してやり直します。がんばろう、ご同輩!
というわけで、本日紹介するのは食事制限をしている人のためのレシピ本である。すでに糖尿病診断を受けて、料理本コーナーに行ったことがある人なら、一度は目にしているだろう。『カード式 一生使える毎日の糖尿病献立』と『カード式 一生使える毎日の糖尿病献立 新・和食編』だ。大型本でちょっと割高なのだが、これは便利である。
カード式、というのがどういう仕組みか、説明する。この本は、ページが縦に三分割されていて、横長のページが縦に三列連なっている。上から順番に「毎日おなじみの主菜」「野菜たっぷりの副菜」「低エネルギーのもう一品」である。この三つから、それぞれ一品ずつを選んでその日の献立を作る、というシステムなのだ。
試しに一例を紹介してみる。使うのは『カード式 一生使える毎日の糖尿病献立』だ。目次を開くと、それぞれ六十品ずつが紹介されている。したがって理論上は六十の三乗で二十一万六千通りの献立ができるはずだが、「この主菜とこの副菜を一緒に食べられない」というような組み合わせがあるので、実際にはもっと少なく、十五万通りと謳われている。最初に選ぶのは主菜だ。
なんとなく肉の気分なので「13 鶏のから揚げ」を選択。一番上の、主菜のページで13をめくってみる。するとそこには、料理の写真・作り方とともに、以下の情報が記載されている。右のページに、エネルギー量(190kcal)と塩分量、油量(小さじ何杯分か)、そして青のナプキンマーク。このナプキンマークが大事なのだが、後述することにして左ページに移る。
左ページで大事なのは指示エネルギー量ごとの「食べ方」、そして「参考メモ」だ。指示エネルギーというのは主治医・栄養士から指定されている、一日に摂ってもいいカロリー量で、「食べ方」は「1200kcalの人は鶏のから揚げは半分だけ食べます」とか「166kcalの人は記載どおりの材料と作り方で食べます」といった具合に、場合分けがされている。
「参考メモ」の方は料理についての一工夫で、鶏のから揚げについては「ボリュームを出したいときは、骨つき肉を使ってもかまいません。その場合は、どの指示エネルギーの人も食べるときに皮を残します」とある。こうした具合に、患者それぞれの事情によって、「どうすればその料理が食べられるのか」を細かく指示してあるのだ。「○○を食べてはいけない」ではなくて「食べるためにはこうしたらいい」なのがいいところである。
次に副菜を選ぶ。ここで使うのが先ほどのナプキンマークで、主菜で青のナプキンマークがついていたら、副菜は同じ色のマークがついているものしか食べてはいけない。黄色なら黄色、ピンクならピンクというように、合わせて食べるのだ。そうすることによって、必要な栄養素が抜けないようにし、また過剰にもならないように配慮されている。この本の便利なところはそこで、具材ごとにカロリー計算をするのではなく、組み合わせによって自然に必要なカロリー、栄養量に達するように計算されているのである。今回は青のナプキンマークなので、「39 もやしの中華風あえ物」を選択。エネルギー量は70kcalだ。
最後に選ぶのは「もう一品」で、これは何を選んでもいい。鶏のから揚げともやしの中華風あえ物の取り合わせだとなんとなく色彩が地味なので、「31 にがうりの酢の物」を選択した。エネルギー量は20kcal、三品合計で280kcalになった。これに主食をつける。指示エネルギー量が1600kcalだったら、中くらいの茶碗一杯のご飯を食べてよい。このくらい食事量を三食摂れば、一日の指示エネルギー量を守れるというわけである。
軽度の糖尿病患者にとってもっとも憂鬱なのは、食事制限があることだ。毎日毎日の食事にまでうるさく口を出されると思うと、人生の楽しみがなくなってしまったような気持ちになる。そうした憂鬱さを少しでも減らし、できるだけ食事を豊かなものにできるよう、本書は配慮して書かれている。糖尿病患者以外には、たとえばダイエット中の方などにもお薦めできる本だ。栄養のバランスをとった上で低カロリーになるよう配慮された献立なので、無茶な痩身食で体を壊すようなことは起きないはずである。おかしな食事制限を勧める本を買うぐらいなら、本書を読んだほうがいいと思います。無茶なダイエット、ダメ、絶対!