しばらく前からLive Wireと組んでトークイベントの企画をやっています。第1回のゲストはライターの豊崎由美氏でした。新刊『ニッポンの書評』(光文社新書)発刊記念ということで、氏が池袋コミュニティカレッジで続けておられる「書評の愉悦」を出前していただき、実際に観客の前で採点や添削をするという企画でした。第2回は論客として最近とみに注目を集めている荻上チキ氏。メディアやインターネットといった硬質の題材を扱い続けてきた氏が、今年になって突如発表したのが『セックスメディア30年史』(ちくま新書)です。なぜ荻上チキがセックスを? という素朴な疑問が、ぜひ話を聞いてみたいという願望につながり、まさかのゲスト出演が決定しました。その結果、セックス「メディア」の存在を通じて荻上チキが見ているものが明らかになり、かつ『30年史』の裏バージョンとして企図されている今後の仕事についてもお聞きすることができました。
これら前2回の模様については、いずれも全編をユーストリームのアーカイブで視聴することができます。
そして今回の第3回に登場いただくのは、ノンフィクション・ライターの柳澤健氏です。
柳澤氏は2007年に『1976年のアントニオ猪木』を突如出版されて、スポーツファン、プロレスファンの心を奪いました。1976年にアントニオ猪木は、ボクシング界のスターであるモハメド・アリとの異種格闘技戦を行いました。それ以外にもアクラム・ペールワンなど世界有数の格闘技者と対戦があり、世間に対して新日本プロレスという団体が大いに浸透するきっかけを作りました。その反面、猪木アリ戦には不透明な部分が多く、「良識のある」人々からは猛烈な勢いで批判を浴びることにもなりました。プロレスというジャンルは、いまだそのときの後遺症から脱しているとはいえず、1976年のアントニオ猪木の影を引きずっています。前世紀末に総合格闘技ブームが到来して既存のプロレス団体に顔色なからしめたのも、1976年のアントニオ猪木が起こした波の結果だということができます。この作品は増補の上『完本 1976年のアントニオ猪木』と改題されて文春文庫に入りました。
そして今年、柳澤氏は『1993年の女子プロレス』(双葉社)を上梓しました。これは「kamipro」(エンターブレイン。休刊)に掲載された女子プロレスラーへのインタビューを集めたものですが、より具体的にいえば「全日本女子プロレスという団体がいかに狂っていたか」を語った本だといえます。さらに言えば「その団体の中で育つと、プロレスラーという人種はどのように特殊化していくか」の記でもある。なにしろ全女は旅芸人一座の体質、「興行師」の胡散臭さを最後まで残した団体でした。年間250以上の試合数を平気でこなし、移動バスの中を生活の場とし(ペットの犬まで連れ込んでいる選手もいた)、前近代的な身分制度がまかりとおり、脱落したものは容赦なく捨てられるという異常な団体でした。松永四兄弟という経営者も異常ですが、選手も常人の域を超えていました。その狂熱ぶりを団体関係者であるレスラー、元レスラーたちに語ってもらったのがこの本です。おもしろいことに『1993年の女子プロレス』の中では、選手各人の言い分がことごとく食い違います。特に問題が属人的なものになるとますますそれが目立つ。そして、全員の話題の核といってもいい人物、1990年代の団体対抗戦の時代にその中心にいた北斗晶は、このインタビュー集に登場しません。「kamipro」連載に登場したレスラーの中で、唯一単行本への採録を断ってきたからです。そのために多義的解釈を許す状況がこの本の中では成立しています。まるで芥川龍之介『藪の中』のように。
間もなく刊行される新刊『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(文藝春秋)は『1993年の女子プロレス』の姉妹編といっていい作品です。『1993年』が列伝だとすれば、『1985年』はクラッシュ・ギャルズという王朝を編年体で記した本といえるでしょう。二人の少女が狂った団体の中で出会い、チームを結成し、栄光をつかんでいくという物語が、多くの人間の証言を元に綴られています。これはブームがいかに到来して、そして去っていくかについて言及した本でもあるのです。ブームはいつか終わる。その終わりの始まりがどこにあったのかを、柳澤健という書き手は冷厳な目でとらえ、書いています。二つの女子プロレス本を併読することにより、初めて見えてくる事実もあることでしょう。
今回私が関心を持ったのは、「なぜ柳澤健にはこの本が書けて、他のプロレス本ライターには書くことができなかったのか」という一点です。それは柳澤健の個人的資質に還元できる問題なのか。それとも格闘技をめぐる状況のなせる業なのか。その答えをイベントを通じて追究したいと思っています。おそらくこの問いは、ライターにとって必要なこととは何かという大きな問いへと発展していくことでしょう。プロレスという業界に対してではなく、私を含めたライター全員にこの問いを捧げたいと思います。
イベント開催日は明日。以下の要領でご来場ください。
多数の方に来場していただけることを祈っております。
(申し込み窓口)
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=33623854
[出演] 柳澤 健
[聞き手] 杉江松恋
[司会] 井田英登
[日時] 2011年8月26日(金) 開場・19:00 開始・19:30 (21:30~22:00終了予定)
[会場] One Beat(東京都新宿区 百人町1-19-2 ユニオンビル1F)(地図)JR総武線「大久保」北口徒歩3分
[料金] 1500円(当日券500円up)
(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途ワンドリンクをご購入いただきますのでご了承ください)
お支払いを確認でき次第、整理番号をメールでご連絡します。
お申し込み時に住所をご記入いただきますが、チケットの送付はいたしません。
当日会場受付にて、名前、電話番号、整理番号をお伝えいただければ入場できます。
※満席の場合は、立ち見をお願いいたします。
※お支払い後のキャンセルは一切受け付けませんのでご注意ください。
※銀行振り込み決済の締め切りはイベント前日午後3時、カード決済の締め切りは当日午前0時です。
[券種] お客さんも直接質問・発言し、意見をぶつけ合うのが「Live Wire」の特徴ですが、USTREAMで動画中継もしますので、
カメラに映りたくない方向けの「アノニマス・シート(顔出しNG席)」もご用意しています。
カメラに映る「ノーマル・シート」と料金は均一ですが、舞台から遠目の席になりますことをご了承ください。
[質問事前募集] 注文フォームの「備考」欄にご記入ください。イベント進行の参考にさせていただきます。