アメリカ・ジョージア州の田舎町に住む、長いブロンドの健康美人マッケイラは、まさかこの世界に妖精がいて、しかも太古の協定――妖精が人間の血を流してはならない――が崩れたせいで、四六時中悪い妖精(アンシーリー)から命を狙われるはめになろうとは、思いもしなかった。姉のアリーナが留学先のアイルランドのダブリンで何者かに惨殺されるまでは。
姉が死の直前にマッケイラ宛てに掛けてきた留守番電話に残っていたのは、「彼を愛していたのに、やつらの一味だったなんて。マッケイラ、あなたと話をしなくちゃ。あなたは自分が何者かわかっていない。シーサドゥー。わたしたちはやつらより先に見つけなくちゃならないの。どうしよう、彼が来る」という謎めいた言葉だった。犯人が見つからないまま捜査が打ち切られたことに業を煮やしたマッケイラは、単身ダブリンに乗り込む。
街の書店で、店員に「シーサドゥー」という言葉の意味を訪ねたマッケイラは、黒髪黒瞳、長身の独特の色気を放つ男バロンズに、どこでその言葉を知ったのかと詰め寄られた。ダブリンで書店を経営しているというそのバロンズによれば、「シーサドゥー」とは、とてつもなく価値のある古い写本を指しているらしい。手に入れるためには殺人も辞さないほどの……。
バロンズは、死にたくなければ、すぐにアメリカに帰るようマッケイラに警告する。だが、手ブラで帰るわけにはいかないマッケイラは、その言葉に逆らい、やがて信じがたいものを目にする。
それは、世にも恐ろしい怪物と、大天使のように美しい妖精の姿だった。姉のアリーナと、マッケイラは、妖精の魔法に惑わされない〈真実の眼〉を持つ、「シーシアー」だったのだ。しかも「シーサドゥー」を感知する能力を持っていた。混乱する彼女に救いの手を差し伸べたのはバロンズだった。稀覯本コレクターとして「シーサドゥー」を探しているという彼もまた妖精を見ることのできる能力の持ち主。ふたりは目的(マッケイラは姉を殺した犯人探し、バロンズは「シーサドゥー」探索)のため協力しあうことにするが、姉を死に至らしめた者の魔手がマッケイラたちに迫っていた。
バロンズは冷徹にして傲岸不遜な人物で、陽気なヤンキー娘のマッケイラとは出会ったときから衝突ばかり。バロンズはツンデレというより、いっそすがすがしいほどのツンツンなのですが、それだけにわずかな雪解け的デレが心に染みます。また書店経営というのが、グッとくるところなんだなあ。とっても知的なんですけど、そこはロマンスのお約束として脱いでも凄いもようです。
バービー人形的な華やかな容姿を誇るマッケイラは、凄まじい美貌の妖精男子からエロティック・アプローチを受け、真っ昼間の街なかでストリップを始めそうになるなど、命以外の身の危険にもさらされます。ツンのバロンズとの関係の進行がスローな分、セクシー要素がこのあたりで補われているのかもしれません。どんなに危地に追い込まれても、決してめげることなく、明るさを失わないマッケイラは、バロウズや昔気質の良い妖精たちに新鮮な驚きを与え、彼らが思いつきもしない方法で悪い妖精を打ち破っていくのです。どんな美女にもなびかないように見えるバロウズも、そんなマッケイラに惹かれずにはいられないのでしょう。
著者のカレン・マリー・モニングは、『ハイランドの霧に抱かれて』に始まる、16世紀スコットランドを舞台に妖精と魔法が入り乱れるヒストリカル・ロマンティック・ファンタジー〈ハイランダ-〉シリーズで一躍人気作家の地位を築きました。本作は、打ってかわって、現代を舞台に幻の稀覯本「シーサドゥー」をめぐって、悪い妖精を相手にマッケイラとバロンズが闘う全5部作のシリーズ第1弾。〈ハイランダ-〉が1冊1冊で主人公カップルが入れ替わったのに対して、こちらのシリーズはマッケイラが通して活躍します。アイルランドとケルトの魅力がたっぷりと描かれ、やがて世界を揺るがす人間と妖精の壮大な闘いに身を投じることになる彼らの次の冒険を、早く読みたくてしかたありません。☆☆☆☆☆
妖精出没度☆☆☆☆
ツンツン度☆☆☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |