1485年、薔薇戦争中の、リチャード三世下イングランド。男爵令嬢グウィネスは、両親に先立たれ、跡を継いだ叔父一家から、使用人同然を扱いを受けていた。日照りが続くことに業を煮やした叔父伯爵が、いつのまにか領地の森に住み着いた魔術師の男にいけにえとしてグウィネスを嫁がせることを思いつく。だが、男は本当は魔術師などではなかった。エドワード王、ヘンリー王の擁立の立役者、国王擁立者(キングメーカー)ことウォリック伯の甥で、薔薇戦争にあっては、白獅子と呼ばれた歴戦の勇士、ベイフォード伯爵アリクだった。
アリクはそれまでヨーク派として宮廷で地位を築いてきたが、リチャード即位の裏に隠された、前王エドワードの2王子殺害のからくりに気づき、すべてを捨てて隠棲していたのだ。そうとも知らないグウィネスは、いけにえになりたくない、と抵抗するが、城に帰れば殺される運命を察知したアリクは、人助けの気持ちで彼女を妻として受け入れる。
グウィネスは、叔父のせいで自分は本来の、男爵令嬢として、城の女主人となる権利を奪われ、生きがいや居所を奪われたという気持ちが強く、なかなか無位無官に見える男に嫁がされたという事実を受け入れられない。だが、一緒に暮らすうちに優しさやたくましさに触れ、徐々に心を開き始める。アリクのほうでも、グウィネスのその艶やかな黒髪や青緑の瞳の美しい顔立ち、瑞々しい肌に惹きつけられ、またいっそ清々しいほどの裏表のないじゃじゃ馬ぶりに心を和ませるようになる。だが、アリクは、決してグウィネスに自分の身分を明かそうとしなかった。
やがて、参戦を促す、再三にわたる王の催促や弟の催促、なにより、親友の窮地を知って、隠者生活を捨てなければならないときがやってくる。実は伯爵夫人だったことを知って、グウィネスは夫の秘密主義に怒りつつも喜び、二人はアリクの城に帰還する。だが、そこにはかつてのアリクの婚約者で、結局父親と結婚し、いまは残された弟とベッドをともにして、城の女主人として君臨する、臈たけた美女ロウィーナが待っていた。ロウィーナは当然のように、アリクに色目を使い、しかも城の女主人としての権利も明け渡そうとしない。女の闘いの火蓋が切って落とされた。
一方アリクは、城に戻り、親友を無事助け出したものの、王への反感から参戦を渋っていた。だがこのまま参戦しなければ反逆者としてみなされる。だが王の下で戦うことはできない。ふたたび森へ帰ることを決意するが、果たして女主人志望の妻はついてくるのか。
本作は、背景の薔薇戦争時代を存分にストーリーに取り入れており、歴史ものとしても楽しめます。アリクはウォリック伯の甥という設定から、王位にかなり近しい人物で、歴史の要所要所で重要な役割を果たしています。たとえば、2王子殺害事件は、冒頭からアリクの心と物語全体に暗い影を落とすのですが、なぜそこまで、ということがのちにわかりますので、ちょっと気にして読んでみてください。もちろん、この時代の風俗なども、普段よく扱われるリージェンシーよりも250年ほど前ということで、違った味わいがあって、これはこれで素敵です。なにしろ、魔術師の存在に多少は説得力がある時代ですからね。
それにしても、この恋人たち、本当に気持ちがすれ違いすぎです。もどかしい、もどかしいんだよ~!! アレクは男は黙って行動で示せタイプなので、グウィネスになかなか真意を伝わらず、グウィネスのほうは逆になんでも言ってしまうじゃじゃ馬気質で、私はお城に住んで女主人になりたいの、という当初の主張を繰り返してしまったことから、せっかく愛に気づいてアリクに告げても、城のためだろう、と誤解されたりするんですよ。
そこにしたたかなロウィーナが絡んできて、完全に恋愛混戦模様。時代が違っても、原始的なものは変わらないのかなあと思ったり。そこに上手いこと王位継承が絡んでくるので、物語は一種お伽噺めいた様相を呈します。果たして、お伽噺らしく、メデタシメデタシとなれるのか。
ちなみに本作に出てくる、アリクの親友が二人いまして、次作では彼らがそれぞれ主人公となる予定だそうです。一人は、窮地に陥ったほうの友人ドレーク。彼は今回のことで復讐に燃えていますので、その顛末が描かれます。さらにもう一人は、プレイボーイ的な華やかな性格で(アレクやドレークのシリアスな性格とは対照的でそこも面白いです)スペインに闘いを求めて渡ったキーランの冒険譚。第2作Stolen Brideはドレークのほうの話で、マグノリアロマンスで邦訳刊行が決定しています。☆☆☆★
歴史興味度☆☆☆☆
お伽噺度☆☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |