1750年、北イングランド小村は、豊穣を願う祭りに湧いていた。だが、村人たちからマルコムの魔女として、畏敬されるニニアンには、その賑わいは遠いものだった。そこへ、彼女を恐れない男が現れた。村の領主である伯爵のドロゴ。彼は愛に恵まれない呪われた一族の当主で、自身の子供を持つことを強く欲していた。
妖精のようなニニアンに強く惹かれたドロゴは彼女を奪う。しかし、ただの夢見がちな村娘と思っていたニニアンは、有力貴族を伯母にもち、村での魔女としての仕事に誇りを持つ、一筋縄ではいかない娘だった。しかも、言い伝えによればドロゴのアイヴズ一族と、ニニアンのマルコム一族は、かつて一緒になったとき、村に大災害が起き、以来、決して交わっていけないというのだ。
ニニアンは一度の関係で、自分が妊娠したことを知った。だが、信託財産を自ら管理し、先祖伝来の超能力、人の感情に共感する力と薬草の知識で村を癒すことに自分の存在意義を認める彼女にとって、ドロゴとの結婚にこだわる理由はなく、二人を応援するドロゴの義妹の手引きで、ドロゴの城へ、そしてロンドンの屋敷へ連れてこられたものの、村へ帰りたくて仕方がなかった。
ドロゴのことは嫌いではない。でも、彼は自分を見ていない。見ているならば、ニニアンの存在意義である魔女の仕事を認めて村に帰すはずだ。
ドロゴは一族の中では稀な誠実で情熱的な男だった。ニニアンに惹かれ、自分のそばで守り、暮らしていこうとする気持ちがなぜニニアンには理解できないのか。もう一度ドロゴがベッドに入ることを拒んだニニアンは、彼に、私たちは初夜からはじめてしまって順番が逆だった。だからお互いを知り合って、求愛することから始めてほしい、と懇願する。果たせぬ欲望に苛立ちながらも、彼女の要求を受け入れたドロゴだったが、彼らが村を離れている間に、村では未曾有の水害が起こっていた。やはり、二つの一族の結びつきは許されないものなのか。村を助けるため、ニニアンは身重の身体で単身、村へと旅立つ。そしてそれを追いかけるドロゴとの間に生まれた思いがけない奇跡とは?
ニニアンは、イングランドの古い祭祀を司ったドルイドの末。一族は総じて女系で、それぞれちょっとだけ不思議な力が使え、それと知識を生かして、魔女として誇り高く生きています。一方ドロゴの一族は、男系一族で、責任感が強い分、いくぶん傲慢なところがあり、不思議なことに対して免疫がありません。
まるでロミオとジュリエットのように相容れないバックグラウンドを持つ両一族に生まれた二人は、惹かれあいながらも、お互いをなかなか理解できなことに苦しみます。
仕事に存在意義をかけるニニアンの生き方は、少し現代のキャリアウーマンを連想させ、女性だって仕事を大事に思っているというあたり前のことがわかってもらえない苦悩には、共感するところしきりです。ニニアンの伯母を始めとするマルコム一族の女性陣の強さもこの作品の魅力のひとつ。とっても爽快です。
そんなにファンタジー色は強くなく、18世紀当時のイギリスの田舎だったら、これくらいの不思議は息づいていたかもな、という程度なのですが、丁寧に描かれた風俗などの背景が、そう思わせるのかもしれません。
本書は、この1750年から10年くらいの期間を描いた、〈魔法〉シリーズの1巻目にあたり、現在6作まで発表されています。2巻以降では、ドロゴの弟と、またマルコム一族の女性の誰かがロマンスを育む予定。ロマンス書評誌《ロマンティック・タイムズ》で、「批評家が選ぶ最高傑作200冊」に選ばれたシリーズであり、著者のライスも、大ベテランのベストセラー・ロマンス作家として、《ロマンティック・タイムズ》の永年功労賞を受賞しています。満を持した新たなロマンス・シリーズの登場です。☆☆☆☆
魔女の自立度☆☆☆☆☆
やっかいな一族度☆☆☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |