およそロマンチックとは言えない状況からも、ロマンスを紡ぎだしてしまうのが、サンドラ・マジックです。
物語の始まりは、ほとんど車通りのないハイウェイ。突如産気づいたシングル・マザーの妊婦リーは、路肩で陣痛に呻いているところを、偶然通りかかったチャドという体格のよいハンサムな男性に救われます。病院までは間にあわず、チャドに助けられて、その場で出産。むずがる赤子にそっと乳を含ませるリーにチャドは「きみは母親になるために生まれてきたような女性だな。長い栗色の髪、雷雨の雲を思わせるブルーグレーの目、赤ん坊と同じくらいやわらかそうなピンク色の唇――なにより子どもを見るときの表情――きみを見ていると、十五世紀のイタリアの画家が描いた聖母像を連想させられる」と称賛のまなざしで言うのですが、新米ママが言われるセリフとしは、史上最強ではないでしょうか。病院へリーと生まれたばかりの娘サラを送り届けたチャドは、リーに優しいキスをひとつ残して去っていきます。
かつてリーには麻薬捜査官の夫がいましたが、妊娠を告げる間もなく、強制捜査で撃たれ、殉職していました。こんな状況で、と自分を疑いつつも、チャドとの恋に落ちてしまったリー。ですが、チャド・ディロンという名前以外、相手の情報はなにもありません。チャドの行方を探しつつ、母子ともに無事に退院したある日、思いがけずチャドが出産祝いを持ってリーの部屋にかけつけ、リーに交際を申し込みます。急速に親密になっていく二人ですが、チャドはなかなか自分の職業を明かそうとしません。はっきりとした定職がないからなのか、それとも……。
耐えがたいチャドの真実が明かされたとき、クリスマスをまえに、リーはある決断を迫られます……
現代日本に生息する孤独な大人の私などにとっては、クリスマスというと、恋人たちのイベント、というイメージが強いあまり、毎年「ケッ」と小石を蹴ったりしておりますが、アメリカでは伝統的な家族のイベント。チャドの秘密に強い反発を覚えながらも、チャドの母親に娘のサラも交えて一緒にクリスマスを祝おうなどと言われてしまうと、強いはずのリーの決意も鈍りがちです。それにチャドは、その秘密さえなければ、気は優しくて力持ちで、なにより彼女たちのことを大切にしてくれる、とってもイイ男なのです。サラのこともかわいがってくれます。でもチャドの秘密というのは、職業だけではありません。辛い過去があるのです。互いに、辛い過去を持つ大人同士だからこそ出来る恋愛。それが、クリスマスをいう日に、新たな家族を作ることにも繋がっていくのが本書の読みどころです。
ちなみに、本作、新訳は新訳ですが、以前、日本メール・オーダー社から出ていた『ブルーアイの秘密』の焼き増しバージョン。既読の方はご注意ください。☆☆☆☆
ママに恋の勇気度☆☆☆☆☆
クリスマス堪能度☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |