反目しあう男女、というのはロマンスの十八番ですが、かつて誰かを愛したことが、新しい恋に繋がるというのは、サンドラならではの、美しい技です。
作家のキルスティンは、困惑していました。アクロバット飛行士で事故死した夫チャーリーの伝記の映画化で主演する、人気俳優のライランから、キルスティンと同居し、実際のチャーリーの生活を体験してみたいと、申し入れがあったためです。ハンサムで、社交的で、たくましくて、いつも人の輪の中に入っていったチャーリーに比べ、ライランは国民的俳優だけあってハンサムでしたが、チャーリーよりもほっそりしていて、つっけんどんで、秘密主義。そんな男と同居するなんて。しかし、映画会社と弁護士に説得され、いやいやライランを引き受けたキルスティンは、役作りのためだからと言われて、チャーリーとの想い出を再現するうちに、新たな想いが育ち始めたことに気づきます。
一方、焦げ茶のショートカットが良く似合う、華奢で繊細な美貌のキルスティンに一目惚れをしたライランは、なにかとキルスティンに恋の罠を仕掛けます。その一環が、例の想い出の再現でした。けれど、チャーリーとキルスティンの出会い、初めてのダンス、初めてのキスをたどればたどるほど、キルスティンへの想いは募り、同時に、苦い嫉妬と、なぜ優秀なパイロットが事故を起こしたのかという疑惑に苛まれるようになります。
そのおぞましい事故の日、いったい何があったのか。チャーリーとキルスティンの最後の24時間を再現したいと申し出たライアンは、驚くべき真相と、新たな愛を見つけます。
現在進行形のキルスティとライランの恋もよいのですが、彼女が大切に語るチャーリーとの想い出にもドキドキさせられるという、一粒で二つ美味しいロマンスです。あなたは仕事の一環で私に声をかけるんでしょ、と冷たくつっぱねるキルスティンに、「彼はどうやって君を抱き寄せた?」「髪をさわった?」「おやすみのキスをしたか? たとえばこんなふうに?」とライランが畳みかける技は、ロマンティックかつお見事な手管。誰かへの愛の記憶を、こんなふうに別の誰かとの恋に昇華させるなんて、サンドラすごいよ!
著者のサンドラは、モデル・女優・TVレポーターを経て作家に転身しているので、ハリウッド事情もなかなか真に迫っています。本作は、ロマンス味の強い著者の初期作品ですが、事故の真相を追う謎解きのサスペンス要素も濃く、著者のよさが凝縮された作品と言えます。☆☆☆☆☆
昔の恋も素敵度☆☆☆☆☆
ハリウッド・ショービズ度☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |