なんと今月は、申し合わせたかのように、本邦初紹介作家であるイヴ・シルヴァーが2冊出てきたんですねー。それだけ注目の新人作家なのだということです。本書は、2005年にヒストリカル・ロマンス『ホワイトチャペルの雨音』でデビューしたこの作家の4冊目の作品にあたるパラノーマル・ロマンス。シルヴァーは、ヒストリカルで7冊、パラノーマルで2冊、別名義イヴ・ケニンの近未来ロマンスを2冊上梓しており、《ライブラリー・ジャーナル》や《ロマンティック・タイムズ》などの書評誌各誌などでベストセラー・リスト入りを果たしています。本作『悪魔のくちづけは、死』も、2007年の〈ニールセン・ブックスキャンズ・トップ100〉と〈バーンズ&ノーブル〉(←アメリカの紀伊国屋的存在。だからキノベスと思うと感覚が近いです)のベストセラー・リストに入り、高い評価を受けています。
とまあ、ちょっと硬い話から入りましたが、イヴ・シルヴァーの高評価の理由は、キャラ立ちの良さと設定の妙。今度の話は、デビルマンと人間の最強彼女のロマンスです。そう、永井豪の名作漫画、あの『デビルマン』ですよ。人類を救うために悪魔と合体した悲劇のヒーロー不動明と、そんな彼を尻に敷くガールフレンドの美樹ちゃんです。
時代は現代。我々人間の預かりしらぬところで、悪魔の住む異世界と人間界の間の壁を永遠の命を持って千年も守り続ける魔術師シアランは、20年前、とりかえしのつかない失敗をします。悪魔は、壁のほころびから人間界に侵入し、人間に寄生したハイブリッドを操るのですが、彼らに襲われた親子のもとにかけつけたとき、もう親は冷たくなり、幼い娘の命も尽きようとしていました。ところが、近寄った彼の力をなぜかその瀕死の少女クレアは自ら引き寄せ、死ぬはずの運命を変えたのです。生まれて千年、初めてのことに茫然とする彼の背後から、近くに生き残っていた悪魔が襲います。そのためシアランは、左手を失い、しかもそこから悪魔の一部が入りこんでしまったのです。
それからシアランは、自分がはからずも変えてしまった少女、クレアのその後を、遠くからそっと見守りつつ、壁の守護にあけくれていました。身の内に騒ぐ、悪魔の力を押さえこみながら。しかし、20年後、クレアの人間界の唯一の保護者だった祖母が病死し、一人ぼっちになった彼女を悪魔が襲撃します。なんと彼女は、異世界から、悪魔を支配する隠者を人間界に招く門を開けるための「鍵」となる人間だったのです。クレアが悪魔に連れ去られようとするすんでのところで助けに現われたシアランは、20年経ち、28歳の美しい大人の女性になった彼女に、抗いがたい魅力を感じます。一方クレアのほうも、突如現われた長身の威容を誇る美男子シアランにこれまで感じたことがないほど惹きつけられ、二人は思わず唇を重ねます。
そこで、思ってもみなかった事態が! 強烈な光がうねり、闇がざわめいて、二人の合わさった唇から、シアランの力がクレアに流れ込んだのです。20年前のように。そう、クレアはシアランに接触することでその力を奪う、特殊な存在だったのです。しかもそんな彼女が世界の「鍵」だなんて。その宿命的な出会いに、シアランは、今や天涯孤独のクレアを保護し、悪魔から守ろうと誓いますが、誘惑に負けて彼女に触れれば、彼女を守るための力が奪われてしまうという皮肉な成り行きに大いに苦悩します。クレアのほうも、突然知らされた悪魔などというファンタジーな展開に必死でついていきつつ、惹かれあっているのがわかるのに彼女を拒絶するシアランに切ない思いを抱くのです。
「彼女もぼくを求めている。だが、ぼくは確かな支えでもなければ安全でもない。ぼくの一部は悪魔なのだ。彼女を脅かす悪夢だ。そして、僕にとっても悪夢だ。クレアの吐息がぼくを破滅させる」
「ああなんてこと。わたしはあなたにとって毒みたいなものなのね。けっして近づいてはいけないんだわ」
そして世界が綻びようとするそのときに、二人がとった選択とは?
シアランは千歳の魔術師ですが、初登場シーンでは、革ジャンにバイクとかなり現代ナイズされています。しかし、ふとした指の動きの優雅さなどが、古えの時を生きてきた魔術師らしさを醸し出し、クレアをいっそうドキドキさせます。
クレアは、焦げ茶色の柔らかいウェーブがかった髪にマホガニーの瞳のかわいらしい女子。じつは医学生なので、シアランの治らない傷の手当てなどをしたり、怪我人続出の異常事態にも気丈にふるまってみせます。
触れればお互い死が待つ、究極のじらし関係。しかも、およそ千歳差の究極の年の差カップル。千年も生きてるわりには、完全にクレアに尻に敷かれ気味なシアラン、二人の関係はまさに『デビルマン』の明と美樹ちゃんのよう。
……つか、おまえらの欲望はいいから、ちゃんと世界を救ってくれよ、と思わないでもないですが、そこらへんは、シアランも千年も生きた超オトナですし、クレアも彼に愛されるにふさわしい優しい賢い娘なので、二人だからこそできる解決策を探るのです。☆☆☆★
究極じらし度☆☆☆☆☆
究極年の差度☆☆☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |