過激設定度★★★★★ 尽くされ度★★★★ ヒロイン成長度★★★★
この四月、オークラ出版から新しいロマンスのレーベルが立ちあがりました。その名も「マグノリアロマンス」。昨年からまた、ぶんか社の「フローラブックス」、宙出版の「オーロラブックス」、幻冬舎の「ラベンダーブックス」と、ロマンスレーベルの創刊が相次ぎましたが、まだまだ続くよ、ロマンス文庫ブーム。この秋にもまた一つ、早川書房からもロマンス系の文庫レーベルが立ちあがるそうです。こんなに出ちゃってどうするんだろう、ロマンス者的には嬉しいけどさ、その分、財布に負担がね……。ロマンス者は基本的にすべてのロマンスをチェックするわけですが、次第に取捨選択を余儀なくされる時代に突入しつつあるのかもしれません。
さて、選んでもらうためには、目立つことが必要です。後進で立ち上げるほど、他社レーベルとの差別化が難しくなる。そこで最近流れがちなのが「エロス」です。新レーベルは、軒並み人気のヒストリカルに加えて、エロティック・ロマンスを中心に出しています。でも、それもたくさん出てくると、もうエロだけではダメ。そこで出てきたのが、このマグノリアロマンスの本書。ただのエロではありません。ヒーロー三人に対して、ヒロイン一人の、禁断の4Pものです。ええ~、それってちゃんとロマンティックなの? とご心配の方、大丈夫です。男にハーレムや大奥があるなら、女にあったっていいじゃないか。ちゃんと3人と心から愛し合えば、感動的かつロマンティックなエンディングが訪れるのです。
前置きが長くなりました、本書の内容をご紹介しましょう。
ロッキー山脈の山中で暮らす三兄弟、アダム、イーサン、ライアンは、吹雪の中で行き倒れた美しい女を拾います。女の名はホリー。彼女はなんと、新婚初夜に、結婚相手のメイスンが人を殺すところを目撃し、命からがら夫のもとから逃れる途中でした。アダムとイーサンは大柄で黒髪、アダムの瞳は緑で、イーサンは茶色。ライアンは、二人よりもやや小柄で、茶色い髪に濃い青の瞳。家長的な役割を果たすたくましくて渋いアダムは長男。アダムを助けて細かな気遣いを見せる優しいイーサンは次男。野性じみていて、瞳に翳のある、女なら本能的に飼いならしたいタイプのライアンは末っ子の三男。
それぞれにハンサムなカウボーイの彼らは、ホリーの滞在をとても歓迎します。慣れない逃亡に疲れ果てたホリーに、アダムはそっと彼女の頬を包んで語りかけます。「どこにも行かなくていい。ここにいろ。おれたたちがきみを守る」
彼らの執心には、ある理由がありました。彼らは、彼ら「三人」の妻になれる運命の女性を探していたのです。たとえばアダムには、かつて少しだけ気になった女性がいましたが、他の二人が彼女を気に入らず、妻とすることを諦めたことがありました。必要なのは、三人が愛し、三人を愛せる女性なのです。それが可能であることを兄弟たちは身を持って知っていました。なぜなら、彼らのお母さんとお父さんたちも、お祖母さんとお祖父さんたちも、そうだったからです。そして、ついに現われた、三人が愛せる女性がホリ―でした。
信じていたはずの夫の恐ろしい面を目の当たりにし、いまだ怯えを隠せないホリ―でしたが、兄弟たちの献身的な態度とそれぞれの魅力に抗えず、次第に心惹かれていきます。
<気がおかしくなりそうだ。ふしだらな女、どころじゃすまないかもしれない。ホリ―は三人を欲していた。>
三人に同時に惹かれるなんて、どうかしているんじゃないかと悩む彼女に、ライアンは優しく告げます。「きみはおれたちの運命の人だ。だから当たり前のことなんだよ」
だから、ホリ―がアダムといちゃいちゃしても、イーサンとキスしても、ライアンと一緒に寝ても、全く問題なし。むしろ、やっと運命の人がみつかってよかったなあとしみじみしてしまうくらい。だってね、それぞれでも愛し合うけど、最終的には四人で愛し合うんですもの。本当に四人同時なので、どういうふうに同時かは、ご自分の目で確かめてみてくださいませ。今後の参考に。
まあしかし、意外と4Pの魅力にハマってしまったものの、すんなり幸せになれないのが人間なわけで。思い出してください。ホリーはもともと逃げてましたね。晴れて兄弟たちの妻になる前に、殺人者の夫と離婚を成立させねばならないわけです。次々に刺客を送り込み、なんとかホリーを取り戻し、あるいは殺そうとする夫の容赦のない追及。兄弟たちを愛し始めたホリーは、そこにいることで彼らを危険に巻き込むことを恐れるようになります。ホリーはもともとお金持ちのお嬢様で、両親を事故で亡くし、信託財産はあっても、頼るものはあまりないところを、殺人夫のメイスンに優しく保護され、結婚を決めた流され型。そんな彼女が初めて愛する人(々)を得て、夫との対決を決意するのです。4Pに目を奪われがちですが、ヒロインの心の成長も見どころのひとつ。アダムがかつてちょっとだけ気になった女性保安官レイシーに、ホリーは悋気を見せますが、ホリーの成長とともに、このレイシーとの関係にも意外な変化が現れますので、ご注目。
いやいやいやいや、本当に、すでに邦訳されたものにはなかなかないパターンですし、本も薄くて安いので、新しいロマンスの世界を試されてみては。