── 宮下さんの小説の土台となっているものについて、少しうかがいたいと思います。小さい頃から読書家でしたか。そうであれば、どんな傾向のものを好んで読んでいましたか。特に感銘を受けた作家さんや、作品はありますか。
宮下 読書家だったつもりでいましたが、夫や子どもたちが実はすごく本好きなのです。私よりずっと多くの本を、それこそ呼吸するように彼らが読むのを見るにつけ、「ああ、私は読書家ではなかったのだ」と思い知らされています。
── ライバルが家の中に(笑)。
宮下 それと、私は好きなようにしか読み取ることができていないと思うので、言い訳すれば、豊かな誤読というか、かなり勝手な解釈をしながら読んでいるふしがあります。もっとも、そういうふうに自由に何通りもの読み方を提示してくれる深い物語が好きで、特に何人かを挙げるなら、開高健、山本周五郎、辻原登、山田太一、小川洋子、車谷長吉。
それに、ジョン・アーヴィングでしょうか。……我ながら、脈絡がないですね(笑)。
── 女性作家は、小川洋子ひとりというのが、意外でした。宮下さんの作風から言うと、女流作品の影響が大きいのかなと思い込んでいました。
宮下 実は、デビュー作である「静かな雨」に関して、新人賞の選考委員の方々が○○さんに似ている、△△さんの影響を感じる、と批評しておられました。女性作家ばかりでした。ちょっと憤りまして(笑)。どんなに素晴らしい先達であっても、似ていると言われるのは決して誉め言葉ではありません。決意表明のようなつもりで、男性作家を多く読むようにしています。
── では最後に、今後書いていきたい作品の構想などをお聞かせください。具体的なテーマでも、漠然とした方向性でも構いません。
宮下 どうしても自分の経験してきた年代、つまり10代や20代の女性を主人公にして書くことが多くなってしまうのですが、これからは、いまの自分やこれからの自分の年代を書くべきなのではないかと思っています。
たとえば、40代の女性の等身大の悩みとか。アラフォーなどと言われ、スポットが当たっている世代ですが、本音では40代の女性は何に喜びを感じ、何にやりきれなさを思えるのか、私自身もまだ小説の中では突き詰めたことがないんです。その世代の女性がどう生きていくのか、もう本当に手探りなんですけども、興味があります。
── 堅実な女性をヒロインに据えた作品は、宮下さんのお得意なジャンルですから、それは楽しみですね。
宮下 それから、中学生や高校生を主人公にした小説も。少女時代の私はどちらかというと優等生タイプだったので、中高生時代はむしろ波風もなく、ぽーっと生きてきてしまったんですよ。ところが、うちの子供たちは真逆(笑)。ぜんぜん優等生ではないので、自分とまったく違うキャラクターのこの子たちはどうやって生きていくんだろうと、楽しみでもあります。
一方では、いまは「成績が悪くても明るくてコミュニケーション能力が高ければいい」「勉強ができるだけでは幸せになれない」と叫ばれる時代ですから、勉強はできるのに他の能力が低い子どもにとっての生きにくさ、内気で消極的で友達も少なくて言いたいことも言えない、そんな子のしんどさは倍加している気もするんですね。そういう意味で、取り上げたいテーマではあります。
── いちばん近い、次回作の出版予定を教えてください。
宮下 すみません、と先に謝ってしまいますが、夏に角川書店から出るはずだった書き下ろしが難航しています。でも、秋に実業之日本社の月刊文芸誌『J-Novel』に連載していた7編の連作がまとまる予定です。冬には集英社のPR誌『青春と読書』の連載が単行本化されます。
──すると今年は、『耳を澄ませて』を含めると、3冊刊行になるわけですね! ファンが待っていたご褒美が一気に。
宮下 そういっていただけて、うれしいです。書いているときは、ただ必死なので。いつも、読んでくださる方がどこか一箇所でも面白がっていただけたらと、それだけを願っています。
──ありがとうございました。
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