7月18日(金)
前回に引きつづき、ヴィクトリア・シパコフスカヤさんへのインタビュー。
『カラマーゾフの兄弟』を読んでいて、「ロシアの人たちって、ほんとうに、こんな感じなの?」というところを聞いてみた。
――『カラマーゾフの兄弟』を読んでいると、会話の中にフランス語がたびたびでてくるんですが、ロシアの人たちって、フランス語はみんな普通にしゃべったりするんですか?
「いいえ、それは、19世紀の貴族の人たちだからですね(笑)。いまのロシアでは、あんなことありませんね。だから、ロシアで出版されているドストエフスキーの本には、フランス語にちゃんと訳が入ってますね」
――じゃあ、詩はどうなんでしょう。登場人物たちは、だれもが会話の中で詩を引用しながらしゃべることが多いんですが、あれって、やっぱり貴族だから?
「ああ、そういうのは、いまのロシア人もやりますね」
――!?
「なぜなら普通の会話の中に、ちょっとした詩のフレーズが入ると、生き生きして、カッコイイからですね。家族同士でも、詩を交えて会話したりしますね」
――そ、そうなんですか。
「私の父はよく、グリバイエドフという人の詩のフレーズをつかって話しかけてきましたね。『娘よ、勉強だけしてちゃダメだ。〈知恵があるからこそ不幸なのだ〉。わかるか?』って(笑)」
――ちなみに、ロシアの人たちが、いちばん多く引用する詩人ってだれなんですか?
「やっぱりプーシキンでしょうね。彼は愛の詩をいっぱい書いていますからね。たとえば、〈あなたを愛していた。でも、私の中にはあなたへの愛がまだ残っている〉とかは、よく使われますね」
――へえ、ロシアの人たちって、みんなロマンチックな教養があるんですね。
「昔から学校で長い詩を暗記させられますから、それで、みんなそうなるんでしょうね。……あと、じつはロシア人というのは、世界でも最も本を読む民族の一つで、そういうことも影響しているかも知れませんね。よく、『ロシア人はお金がわずかしかないときに、リンゴと本を選べといわれれば、迷わず本を選ぶ』なんていわれてますからね」
――ああ、花より団子じゃなくて、団子より花なんだ。
「そうそう、でも、私は団子を選ぶほうですね。フフフ」
――あの、こんどは、ちょっと聞きにくい質問なんですが、『カラマーゾフの兄弟』の人物たちは、みんなものすごく饒舌で、感情的で、情熱的で、濃いなあって思うんですよ。もしかして、ロシアの人たちって、基本的にそんな感じなんでしょうか?
「『カラマーゾフの兄弟』の会話は、特別にうるさすぎですね(笑)。ただ、日本の人たちと比べると、ロシアの人間は、より感情的かも知れないですね。私は、ロシア人の中でもずいぶん大人しいほうだと思っているんですが、それでもいまの職場では、『ヴィクトリアはいつも怒ってばかりいる』といわれますからね(笑)」
――ところで、ヴィクトリアさん、神は信じていますか?
「はい。2歳のときにロシア正教の洗礼を受けていますね。……ただ、私、一度信仰を離れたときはありましたね。人を頂点とした組織としての教会の在り方に疑問をもったんですね」
――なんか、『カラマーゾフの兄弟』のイワンみたいです。
「ちゃんと読んだのは『罪と罰』と『白痴』だけだから、よくわかりませんけど、ドストエフスキーの宗教観はかなり複雑ですね。でも、たぶん、彼は『人間の心の中に教会があるべき』というようなことを考えていたような気はしますね」
――ええっと、最後の質問です。ヴィクトリアさんの理想の男性像とは? やっぱり情熱的な男性がお好きですか?
「それ、とても変な質問ですね。今回のお話になにか関係ありますか? 」
――い、いや、あの、ロシアの人の気質を知るための、あくまで参考までにと思って……
「ああ、そうですか。うーん、そうですねえ、私は、情熱的というよりも、知的で心のきれいな人が好きですね。日本人の男性、感情は表にださないけれど、そういう人、多い気がしますね(笑)」
――あ、ありがとうございます(自分が褒められた気分)。
さて、読書の件だ。
本日を含めた今週末には、最終章「誤審」をクリアし、来週早々にはエピローグを読み終える予定。いろんな意味で、感動のフィナーレは近い。
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