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Book Japan 2008 ベストブック10&新人賞 トーク・セッション
in ジュンク堂書店・新宿店 2008年11月28日
【第二部】ベストブック10順位選定バトル 前編(3/5)

池上永一『テンペスト』

●豊崎 ちょっと時間くいすぎなので、次行きましょう。池上永一テンペスト』。こんどは、沖縄はすごいって話。
(会場 笑)
●末國 順位を決定した時は、中央から差別されたつながりで『テンペスト』を推したんですが、現時点ではそれほど評価が高くない。こんなに厚いの読ませたみなさんに悪いんですけど……。
(会場 笑)
●杉江 ひっどい言いぐさだなあ(笑)。
●末國 ただ、『テンペスト』の中で今も評価しているのは、真牛(もうし)という呪術師の婆さんを出したことですね。
●三浦 おばあさんじゃないよ、おばさん(笑)。時の尚育王の姉で、孫寧温と敵対してさまざまな謀略を図る。大変に濃いキャラですね。
●末國 あ、そうか、おばさんですね。真牛はもともと琉球王朝を守護する霊的な守護者・聞得大君(きこえのおおきみ)として政権内に君臨していた。まあ、国家公認の巫女さんですね。ちなみに、主人公の真鶴ちゃんは、真牛よりもすごい霊的能力をもっているんですが、彼女は合理主義の世界に生きているので、霊的な世界にはいかないんです。その真牛さんは政治的に失脚して、ホームレスにまで落ちぶれていきますが、自分が霊的に琉球を守っていかないといずれ他国に侵略されると最後まで考えている。この霊的に国家を守るという問題は、じつは列強の植民地支配の問題と非常にリンクしているんですね。どういうことかというと、かつてスペインは南米を支配していましたが、その時まず教会を建てるんです。それでインディオの宗教とか文化とかを全部壊して、キリスト教一色に染め上げる。自分たちの文化を壊されたインディオたちは、もう寄る辺がないんで、キリスト教文化に染まるしか手はなくなる。そういう歴史を考えると、真牛が守ろうとしたというのは、琉球の文化そのものだったのではないか。これははっきりとは書いてはありませんが、日本が琉球を「沖縄県」にして神道を教え込むことで琉球文化は破壊される。その恐ろしさを真牛さんは知っていたということも暗示されているので、そこらへんがおもしろかった。
●杉江 末國さんは、とても高尚なレベルで難しく説明してくださるんですけど、時代小説として読めば単純におもしろい娯楽小説ですよ。全部で18章、章ごとに話が切り替わっていくおもしろさがある。琉球王国は清王朝の影響下にあったから、科挙制度が実施されていたでしょう。でもそれは男しか受けられないわけです。ヒロインの出来の悪いお兄ちゃんが失踪してしまって、代わりに妹が宦官に成り済まして科挙を受けるというところから話がはじまる。この男装の麗人が科挙を受けて史上最年少で王朝に合格して、そこから章が終わるごとにどんどん話が切り替わっていくんですよね。
●末國 科挙は男の世界なんだけれども、ヒロインの真鶴は途中から王様の側室にもなっちゃうんですよね。そこから男と女を両方演じなくてはいけなくなっていくっていう、ちょっと『リボンの騎士』(手塚治虫・講談社漫画文庫他)みたいなサスペンスがあったりして(笑)。
●藤田 『リボンの騎士』と『あさきゆめみし』(大和和紀・講談社漫画文庫他)と『ベルサイユのばら』(池田理代子・集英社文庫他)と『大奥』(よしながふみ・ジェッツコミック)とかでいいんじゃない?(笑)
●杉江 これ一冊で全部読めるほうがいいじゃん(笑)。
●藤田 とにかく、これ、おもしろいけど、上下巻こんな長くて、これでもかという感じがある。なんかこう、脱力感みたいなのが同時にくるよね。値段高いじゃん、二冊買ったら。漫画買ったほうがよくない?
(会場 笑)
●杉江 あのねえ、書評家がそういうことを言っていいのか!
●藤田 だって3,200円とかするんですよ。両方で。『ベルばら』買おうよ。
●豊崎 うちの真牛は、そういっております(笑)。

デヴィッド・マドセン『カニバリストの告白』

●豊崎 えー、次。『カニバリストの告白』の応援演説、お願いします。
●杉江 これはですね、デヴィッド・マドセンという角川書店が健気に出版し続けてくれている変態ユーモア小説家の邦訳三冊目です。訳者は池田真紀子さん。美貌のシェフがでてくる小説です。料理小説。文章のなかに毎回料理がでてきてですね、とてもおいしそう。なので、お料理大好きな女性はぜひ読んでいただきたい。
●三浦 うそばっかり(笑)。フツウのグルメじゃないんですよ、エログロですよ。
●藤田 肉が食べられなくなるでしょ(笑)。
●豊崎 そんなことないよー、肉をベッドに連れ込みたくなる小説だよー。
●藤田 えー!?
●杉江 主人公は、お母さんに初めて作った料理をたいへん褒めてもらえるんです。でも、そのお母さんと死別しちゃうんですよね。
●豊崎 うん、マザコン小説でもあんだよ。
●杉江 そこでお母さんへの愛と、肉への愛が、生肉を食肉に加工するという行為によって結合して、肉にものすごいフェティシズムを燃やしてしまう。


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