B.J.インタビュー vol.1 by Sugie McKoy 2008/10/9(株)メディアファクトリー ダ・ヴィンチ編集部にて
――お書きになられた作品はどれにも愛着があると思うんです。その中でも最初に本になった『地図男』は、また格別でしょう。これは一種の枠物語(大きな物語の枠の中に、より小さな物語を複数詰めこんだ形式)の小説です。街を歩いている地図男という人物が物語を書き残す。それに執着する主人公が地図男を追いかけて物語を読み続けるという。これは非常に無茶な要求だと自覚して言いますが、中の物語はもっと数があって詰め合わせ感があってもよかったかな、という気もしました。どれもおもしろい挿話だから、そういう無いものねだりをしたくなるんですけどね。その辺も含めて、物語成立の経緯をお聞かせ願えますか?
真藤 やはり最初は地図男ありきなんです。地図帳に物語を書きこむ男がいて、土地土地で物語を書いていくという設定がまずありました。ではその物語はどういうものがいいのかなと考えて、地名や標識といった地図の中にあるアイコン縛りで物語を作っていくという形式をとりました。
――なるほど。あの地図というのは、何かモデルがあるんですか?
真藤 僕がロケハンで使っているのは、コンビニに売ってるような、あのちっちゃいポケット版です。あとは日の丸自動車学校を卒業した時にもらった道路地図ですね。
――目黒区にある、あの日の丸自動車学校ですか?
真藤 そうです。だから作中に出てくるページ数というのはすべて架空の番号なんですよ。ちょうどいい感じで関東地方だけが書いてあるような地図というのが他になくて、自動車学校でもらったものがいちばん具合が良かった。
――そうなんだ! このインタビューのために結構捜したのに、モデルを(笑)。じゃあ、自動車学校の地図を眺めながら物語を思い浮かべていったわけですね。
真藤 はい。実は、もっとエピソードは準備していたんですが、その中から厳選して入れこんでいます。多摩川を挟んで武蔵野とあきる野がある、じゃあムサシとアキルの恋愛物語が出来そうだ、というのが軸になりました。その他の物語をムサシとアキルの物語を並べたときにバリエーションが出るように配置するという考え方です。流れやバランスを見て、ここは切ない話だから入れこむのは競争の話にしようとか、ちょっと可愛らしい感じにしようとか。
――そうでしたか。話の配置は抜群に決まっていると思います。最初に出てくるMという男の子の話などは、可愛らしい話であると同時に「始原」をイメージさせる話になっているから、オープニングとして適切ですよね。あと、東京都23区の住民が区章を賭けて闘うという話もいい。
真藤 僕、もともとマークが好きなんですよ。
――だははは。マーク好きでしたか。
真藤 はい。僕の家で家紋が見つかったことがあるんですね。役所の用紙のようなものに、きちんと紋が記載されていて。自分みたいな庶民の家に家紋なんてあるんだと、新鮮に感じました。マークを奪い合うというのは、男心をくすぐる感じもありますよね。
――ありますね。少年漫画の世界だな。
真藤 そうそう。少年漫画のバトルのような物語を何かできないかな、というのは以前から思っていたんです。それがちょうど『地図男』の構想を練っているときにすっと出てきた。23区かー、ちょっと数は多いけど対抗戦でやってみるか、と。
――なるほど。主軸になっているムサシとアキルの物語というのは、ちょっと牽牛と織姫の悲劇を思わせるような構図になっていますね。
真藤 そうなんです。多摩川が天の川で。……それを全面的に言うと、気恥ずかしくなってしまうのであまり言わないようにしているんですが(笑)。ラブストーリーと謳いながら、ほとんど二人が会わない話にしよう、というのはありましたね。
お探しの書籍が見つからない場合は、boopleの検索もご利用ください。Book Japan経由でのご購入の場合、Book Japanポイントをプラスしたboopleポイントを付与させていただきます。