B.J.インタビュー vol.1 by Sugie McKoy 2008/10/9(株)メディアファクトリー ダ・ヴィンチ編集部にて
――お話の中で、ムサシのパートは言葉の使いまわしが印象的です。硬質な言葉をぶつけてくるような感じがあって、書き手が文章の手触りのようなものを非常に意識したような形跡がある。推測するに、あのムサシのパートが先行して、他のエピソードをそれに合わせて調節して文章をこしらえたのではないかと思うのですが。
真藤 ムサシは硬質さ、アキルは柔らかさというのをそれぞれ意識して、対比するようにはしています。『庵堂三兄弟の聖職』もそういうとこがありますが、文章を書く上で、硬質というか強度のある言葉を意識してぶつけていくというのは、比較的やりやすい技法なのかも知れません。
――用語法については非常に感心させられました。あとはリズムです。かなり意識して、言葉のリズムをとられていますね。特にモノローグの部分でそれを感じます。
真藤 えーとですね、『地図男』は推敲の段階で、かなり言葉を削ぎ落としたんです。ブラッシュアップしていく段階でマイナスの編集をしました。ドライブ感が出る様にずっと考えていましたから、何度も何度も推敲しています。そこに法則性があるかどうかは自分ではちょっと判らないんですけど、読み返して引っかかるところは徹底的に直す、削ぎとっていきましたから。その結果ということはあると思います。
――初稿はこれよりもだいぶ長かったんですか。
真藤 そうです。実は初稿にあった終章部分をばっさり切ってしまっています。そこが完成版との大きな違いですね。
――この小説の題名にもなっている地図男は、物語を綴じこむフレームの存在です。読者が第一に関心を持つ対象で、この人物がいることによって小説に駆動力が生れています。都市伝説の中の登場人物のような雰囲気もありますし、魅力的だと思うんです。この人はどういう感じで成立したわけでしょうか?
真藤 僕は映像関係の仕事をしていて、ロケハンをする機会が非常に多かったんです。あれは疲れてくると本音が出てきて「あー、もう回りたくねぇよ」とか考えるんです。
――あ、やっぱり(笑)。
真藤 また、目星をつけていた場所が潰れたり、無くなってしまったりしているともう最低で。そうすると思うんですよ。「ピッとボタンを押したらピッと答えてくれる、地図が頭の中に入っているような奴がいたらいいのにな」と。そこが始まりなんじゃないかと思いますね。だから作品の中でも、そういうことを言う箇所が入っています。僕の分身のような存在かもしれませんね。助手席に地図男を乗せて、運転席には黙々と目的地に向う自分がいて、後ろの座席にいる自分は「あー、帰りてえ」とか思っているという。
――そういう場面がありますね。あそこに出てくるのは、全部真藤さんなのか(笑)。
真藤 あと、理想の作家像みたいなものが反映されているかもしれません。
――と言いますと?
真藤 そういうのがあるんですよ。外見は普通なんだけど、頭の中には煩悩だとか想像力がめまぐるしく渦巻いているという。でも普通に会話をする分には話す内容は平凡なことしか言わないんですね。ただ、文章を書くときだけ能力を発揮するという。それが僕が抱きやすい作家のイメージなんだと思います。
――受け手としての読者が存在したときにだけ、作家は作家として存在しうるということですね。『地図男』が小説好きな読者に愛される理由の一つとして、魔術的な本が登場する話だという理由もあると思います。呪いであるとか、人の運命を左右するような力を持った本が中心になるファンタジーがありますが、この本もその系譜に連なる小説です。ただ、その本が何の変哲もない、薄汚れた地図だというのが独創的なんですね。着想の源がロケハンだというのが、いい感じだなあ。映像の仕事というと、具体的には何をされていたんですか?
真藤 本当に何でもです。自主制作風のものもやりましたし、スカイパーフェクTVにスタッフで入ったこともあります。メジャーな仕事のロケハンの、下請けみたいなこともやっていたんですよ。アメリカだとロケーションマネジメントといって専業の人がいるんですけど、日本だとそれがなくて、大抵助監督が行くことになるんです。で、忙しくなるとさらにそれが下請けに出される。本当に一時期、ロケハン屋みたいな時期がありました。
――それが東京中心の移動だったんですか?
真藤 いや、東京は撮影許可があまり下りないんで、周囲の県が多かったですね。
――ああいう仕事は、映像のイメージに合わせて、必要な所を街から切り取ってくるような作業なんでしょうか。
真藤 そうですね。あらかた目処をつけて、最近だとグーグルアースみたいなものもあるんですけど、監督によってはそういうのを嫌う方もいます。自分の目で見たいから、下敷きになる写真を撮ってきてくれと言われることもあるんですよ。
――最近、グーグルにストリートビュー機能が追加されました。平面だけではなくて立面図まで街の風景がカタログ化されるという恐るべき時代です。そういう意味で『地図男』は、図らずも時代と歩調を合わせてしまった面がありますね。
真藤 確かにそうですね。ほんとに図ってなかったですけども。
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