時代小説文庫での快調な刊行が続く風野真知雄。その魅力を多面的にお楽しみいただきたい、ということで、書評家・末國善己さんによる3シリーズをピックアップしてのレビュー。
『同心亀無剣之介』は、意外にも時代小説には稀な倒叙ミステリー。そう、『刑事コロンボ』のように、犯人が誰かというのは先にわかってしまっているあのパターンだ。主役であるボサボサ髪の亀無剣之介は、容疑者に食い付いたら離れない…とくると、これはもうコロンボ作品へのオマージュ。本書は風野真知雄のトリッキーな作風が楽しい作品である。
『大江戸定年組』は幼馴染みである、同心、旗本、大店の主人の、隠居後の活躍を描く人情もの。遊び心もたっぷり、さらに主人公たちの颯爽ではない様子が、実に面白くもリアルなまさに平成のいまの時代にうってつけの作品。
『耳袋秘帖』は、怪談・奇談めいた事件を合理的な考察をもとに解決していく岡本綺堂『半七捕物帳』以来の捕物帳の遺伝子を受け継いだ正調派時代小説。60歳を超えてから南町奉行となった根岸肥前守鎮衛(やすもり)が主役であり、社会の光と影を知り尽くした鎮衛の事件解決の手腕が見事!!
エンターテイメント性も十分に兼ね備えた時代小説として、風野真知雄作品の幅広い魅力をたっぷりとお楽しみください。