『ピントがボケる音 OUT OF FOCUS, OUT OF SOUND』安田兼一 ライターでもなく、音楽評論家でもなく、肩書〈ロック漫筆家〉である。文章で笑わせるだけなら、「ひょうきん評論家」でも「おもしろライター」でもいいと思うのだが、どうも違うらしい。芸があるということだとは思うが、どんな「芸」なのか?
著者初の単行本にして、スクラップブック形式の本書に収録されたコラムやレビューの対象は、映画や本もあるけれど、主となるのは音楽であり、ロックである。ロックといっても色々とあるので例を挙げると、小林旭(アキラもロックだ)にサザンオールスターズにクレイジーケンバンド、ジョージ・ハリスンなど、誰もが知る人たちもいれば、逆さ吊りの状態で演奏するバンド「ジョニー」、フリーマーケットで売られていたテープを制作会社が身元不明なままCD化した、アメリカの「詠み人知らず」なバンドのように、どマイナーな人々までヴァラエティに富んでいる。音楽の歴史や全体を見渡そうというディスクガイド的な視点からみれば、てんでばらばらな顔ぶれである。ところが、読み進めて著者の視点や価値観がわかるにつれて、統一感があるように思えてくるのだから、あら不思議。 藤井勉
2012/05/23掲載 >>書評を読む