はまむぎ
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著
レーモンクノー
国内
2001.10 版型:単行本 ISBN:4560047332
価格:2,940円(税込)
おすすめ本書評
- 『はまむぎ』レーモン・クノー
〈ひとつの人影がくっきり浮かびあがった。同時に数千の人影も現れた。(中略)人影は、不快な気分をもよおす巨大な建物の壁から離れた。(中略)壁から切り出された人影は、他の姿に突き飛ばされてよろめいた。(中略)だが、このよろめきは見せかけにすぎなかった。ほんとうのところは、労働から睡眠への、辛さから退屈への、苦痛から死への最短ルートだったのだ〉
謎めいた書き出しとともに現れる〈人影〉の持ち主の名は、エティエンヌ。妻子持ちで、2階が未完成のヘンテコな一戸建てに住んでいる、うだつが上がらない会社員だ。なぜ彼が登場人物として、浮かび上がってきたのか?それは、観察者ピエールの目に留まったから。身分も出自もわからないこの男は、物語の語り手でもなければ狂言回しとも違う。ただ、彼がエティエンヌを観察することで物語は始まる。主要な登場人物として話に介入もするけれど、それによってどんな展開になるかまでは、把握していない。でも自分が〈作中人物〉だと自覚もしているという、何とも不思議な役回りなのだ。
藤井勉
2012/08/03掲載
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