無分別
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著
オラシオ・カステジャーノス・モヤ
訳
細野豊
白水社
/エクス・リブリス
海外
2012.08 版型:単行本 ISBN:4560090238
価格:1,995円(税込)
「おれの精神は正常ではない、と書かれた文章にわたしは黄色いマーカーで線を引き、手帳に書き写しさえした」。主人公の男は、ある国家の軍隊による、先住民大虐殺の「報告書」を作成するため、千枚を越える原稿の校閲の仕事を請け負った。冒頭から異様な緊張感を孕んで、先住民に対する惨い虐殺や拷問の様子、生き残った者の悲痛な証言が、男の独白によって、延々とつづけられる。何かに取りつかれた男の正気と妄想が、次第に境界を失う。ときおりセックスを楽しむこともあるが、心はいっこうに晴れない。やむをえず郊外に逃げ出しても、心身に棲みついてしまった恐怖、不信、猜疑心に苛まれ、先住民の血を吐くような証言が反復される。やがて、男の目には「虐殺者の影」が見え隠れし、身の危険を感じるようになる…。
おすすめ本書評
- 『無分別』オラシオ・カステジャーノス・モヤ
ジャーナリストの〈わたし〉はエル・サルバドルを追われ移住した〈この国〉で、内戦の最中に起きた先住民大量虐殺の報告書を編集している。編集といっても、すでに完成した原稿に目を通せばいいだけの楽な仕事、のはずが虐殺を目撃した人々による証言は、想像を絶する酷い内容だった。それを読んだ〈わたし〉は、虐殺という異常な行為を行う人間の住む国に移住し、狂気の証拠となる報告書を編集する自分もまた、精神が正常ではないと考える。そして実行犯である軍部にとって不都合な人間として、つけ狙われているのではないかという強迫観念にとり憑かれる。
藤井勉
2012/09/13掲載
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