『○○法』というと、またぞろハウツー本かと思われるむきも多いであろう。本書も紛うことなくハウツー本である。しかし、ただのハウツー本ではない。ひとりの人間として、ワーキングマザーとしての生き様を垣間見ることができる知的生活奮闘記として読んでみると面白い。
巷間にはハウツー本があふれている。それを読んだ人がすべてそのとおりに実践すれば、一人ひとりが競って素晴らしく知的にも経済的にも成功した人生を送ることになるのであろうが、結果は、すべての人が良くなれば(経済学ではこれをパレート改善というが)、誰も抜きんでることはない。WinWinの世界のパラドックスである。さらに抜きんでようと思えば、われもわれもとなる。上昇志向。競争に仕掛けられた素敵で巧妙な罠である。罠であると知りつつも、その誘惑に駆られる。
もっとも、自分には無理だとあきらめてしまう、あるいはあきらめさせられるような場合も多い。中・下流志向。しかし著者は、誰もが挑戦することができる再現可能な方法で知的生産の方法を解き明かす。視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感がすべて知のインターフェイスになっている。これまで先人が伝えてきたことも多く、それが現代ではIT化されている。自慢話の成功例でつづられたサクセス・ストーリーに辟易(へきえき)している人たちにとって親近感がもてる内容である。
著者の勝間和代さんは、スーパーウーマンである。しかし本書は、勝間さんのベストセラーのなかでも、とくに知的かつ経済的生活をひたむきに実践している姿がそのまま本になったようなものである。
「西洋にあって東洋にないものは、合理的精神と独立心である」。福沢諭吉翁は実生活に役立つ知識=実学の、なかでも「帳合之法(現在の簿記)」の重要性を説いている。くしくも勝間さんは慶應義塾の卒業生である。まさに福沢翁がその重要性を説いたことを実践しているようだ。時間管理に加えて興味深いのは、これも福沢翁も説いている適度の運動である。文化会系ではなく体育会系でもある。移動手段は自転車、ストレッチ体操、そして食事。生産性を高めることを中心においたマインドマップが見事に描かれている。