一昨年、小学生が自分たちの手で、「いじめ」をテーマに三部構成の映画を作って話題になった。脚本、演出、キャスト、カメラ……全て、小学六年生が分担した。教育評論家の尾木直樹氏も絶賛する『教育実践』の映画製作となったのである。
前橋市立大胡小学校では、クラブ活動として映画クラブが発足。顧問の野口先生のよびかけに、43名の小学6年生が集まった。
「いじめ」をテーマに映画製作をすることに決めて、まずはストーリー作り。それぞれが自由に「紙」に書き込んでいく。その「紙」をパッチワークのようにつなぎ合わせて、シナリオが出来上がっていった。
『小さいときからなかよしだった二人が主人公で……、あることから、二人のあいだが、ぎくしゃくし始めて、いじめが始まる』
さて、次は配役だ。話し合いの結果、詩織と菜月が主役を演じることに。二人は実際に小さい時から仲良しだった。いじめをエスカレートさせるボス的役目に、史則や男子たち。
機械に強い紘範はカメラマン、監督はまとめる力のある亜季、助監督は、依莉……。というように、実名で役割分担が次々と決まっていく様子が生き生きと書かれ、臨場感たっぷり。
子どもたちの話し合いの結果、準備万端整い、いよいよ映画撮影がスタートする。
「よーい、アクション」
順調に撮影は進むが、いじめがエスカレートしていくにしたがって、主役の二人はもちろんのこと、クラブ全員が悩み始める。
いじめ役のシオリは、『死ね』と書く場面で手が震え、『しね』としか書けなかった。
フミノリたちは、『ビンボー、ビンボー、死ね、死ね』とはやし立てるところを、『ビンボー、ビンボー』としか言えなかった。
いじめられ役のナツキは、家に帰ってからも元気なく落ち込むばかりだ。
これこそが、『演技の持つ「疑似体験力」』だと、尾木氏は解説している。
43名の6年生たちは、映画を作りながら、いじめを疑似体験し、集団心理の怖さや心の痛みを体得していく。
当初『絶対だめ』というタイトルは、映画完成時には、『本当の友達』に変わっていた。
全校児童、先生たち、親たち、地域の人たちに上映されて、感動したというたくさんの感想が寄せられた。
『ナツキさんは、本当にがんばったとおもいました。かわいそうで、なきそうになりました』
『いじめをしないちきゅうができるといいです』
作者の今関氏は、あとがきにこう綴り結んでいる。
『この映画を見て、子どもたちと話して、しっかり向き合う友だち関係が作られるなら、「いじめ』は、なくなるだろうと思いました。子どもたちには、考える力があるし、感じる力もあると、希望がわきました。
……人生に自ら見切りをつける悲しみを味わう子が、もう生まれませんように』
映画はもちろん観てみたいが、児童文学のベテラン作家の筆力は、あたかも子ども達と共に映画製作をしているかのように、ぐいぐいと読者を惹きつける。「疑似体験」のあと、映画作りを成し遂げた子どもたちと一緒に大胡小学校のシンボルツリー、「大ケヤキ」を見上げているような爽やかな心地になるのだ。
夏休みに是非親子で読んで、「いじめ」について語り合ってほしい本。小学校3年以上が対象だが、実際の映画は一年生からの全校児童が観て感動しているので、親子で読むなら小学校低学年から、また中学生でも十分味わい思索できるノンフィクション作品だ。