Book Japan の他のレビューで書いているように、私はどうにも連作小説が好きで、この『白い息』も、物書同心居眠り紋蔵というシリーズの、文庫七冊目。
30年以上「面白い小説」を読んでいる経験から、ちょっと書いておくと。
イギリスやアメリカのミステリで、シリーズになっているものは基本的に魅力があると考えていい。英語で書かれた小説が、世界中の英語が通じる国々で人気を獲得して売れるという場合は、そこそこ楽しめる小説でない限りあり得ないことだと考える。中でも、ペーパーバックスの娯楽小説の場合、「文学的香り高い」なんて小説とは大いに距離を置いた、サッサカ読めて適度にハラハラし、主人公にすぐ好意を持てるというタイプであることが多い。そうでないと読まれるわけがない。もちろん例外で「渋い渋い主人公」が人気を得る場合もあるが、基本はどんどん読めてわくわく面白い小説である。
これは日本の時代小説も同様で、多くの人に読まれるから連作になるのだし、沢山の人の心を掴む主人公だから、編集者が「この人を中心にして連作小説はできませんか?」と言うのではないだろうか。結果、長いシリーズになり文庫になって多くの人に楽しみをもたらすわけだ。簡単にいえば、つまらない小説はシリーズとして売れるはずがない。となる。だから、長く続いているシリーズを見つけたときに、きっと面白いんだなと思い、まずは第一作を読む。
このシリーズもそうして読み始めて、今では文庫になるのを待っては読み続けている。
この『白い息』の主人公は、藤木紋蔵。
佐藤雅美はこの他に、講談社文庫に半次という捕物系の、啓順という医者系の主人公(これは3冊で終わったようだ)を持つ、腕の立つ時代小説家である。文春文庫には、桑山十兵衛という人物が主人公の「八州廻り」シリーズがある。
佐藤雅美の得意なのは、江戸時代の与力・同心・岡っ引きなどが、実際どういうように江戸を取締り、事件に始末をつけたかという、この時代の取締り法というか、警察権の行使のありように詳しいことで、煩わしくない程度にそっち方面の知識を小説の中に溶かし込んでいることである。
よくテレビ時代劇に、お店(おたな)に金をせびりに来る十手持ちの親分というのが登場するが、あれは必ずしも「悪徳親分」ではなく、ちゃんと理由があってあれが成り立っていたのである。そういうことは、佐藤雅美の小説を読んで、楽しみつつ学んで欲しい。小説として面白くそれでいて、読んでためになる佐藤時代小説。