クライブ・カッスラーの好評「ダーク・ピット」シリーズの第19弾。最新刊だ。
ストーリーはしごくシンプル。いつも国家的な陰謀に立ち向かうヒーローの活躍が描かれる。007は英国のスパイが主人公だが、このシリーズでは架空の組織、アメリカ合衆国の国立海中海洋機関(NUMA)の特殊任務責任者ダーク・ピットが主役。独身で女性にもてて、クラシックカーをコレクションしている野生児というシュチエーション。
しかし、シリーズが長くなるにつれ、主人公の環境も変化する。現在のシリーズでは、女友達であった下院議員はピットの妻になり、自身は行動派のNUMAの長官に昇格していて、かつての上司は副大統領に。昔の女房との間に生まれた二卵性双生児の男女が名乗り出て、同じNUMAの一員として活躍していくという設定に落ち着いている。
今回の舞台は、モンゴル。チンギス・ハーンの墳墓を発見し、世界的に石油の利権を得ようとするその子孫。知らず知らずのうちに、事件に巻き込まれていくピット。ここまで書いてきて、またかと思うことしきり。それでも読んでしまうばかりか、マンネリ化しているこのシリーズの刊行を心待ちにしているのはなぜだろうか。
タイトルもまた、「奪回せよ」「探れ」「狙え」「探せ」「追え」「絶て」「解け」「救え」「砕け」…という具合に、命令調。訳者も1冊を除いては、中山善之氏が担当している。印象に残るフレーズが「○○さながらに」という言い方。この訳も含めてマンネリの極。
著者のクライブ・カッスラーはアメリカ生まれ。空軍の経験があり、コピーライターから作家になった。73年刊の『海中密輸ルートを探れ』がスタート、3年後の『タイタニックを引き揚げろ』で一躍有名な海洋冒険作家となった。1931年生まれというから、現在77歳。2年に1作づつ発表していたが、年のせいか、このところ不規則刊行で今回のように息子と共著のようなケースが見られるようになってきた。
カッスラ-のシリーズは、メインのこの“ダーク・ピットシリーズ”のほかに、カット・オースチンをヒーローとする“NUMAファイルシリーズ”と、ファン・カブリーヨがヒーローの“オレゴン・ファイルシリーズ”があるが、二つとも、ダーク・ピットシリーズからテイク・オフしたもので、どちらも成功したとはいいがたい。
以前は、クリスマスのころに必ず発売されるこのシリーズの刊行を心待ちしていたものだ。シリーズ6冊くらいまでは1冊読みきりの文庫本だったが、好評でどうやら版元のドル箱シリーズになるや上下2冊本になって、いまに至っている。
もともと、ハードボイルド好きだったわたしは、当初ギャビン・ライアルの『深夜プラス1』やジャック・ヒギンズの『鷲は舞い降りた』などを貪り読んでいたのだが、いつしか、このダーク・ピットに24年間も夢中になってしまった…嗚呼。あなたもそのわけを知りたいとは思わないか。素直に読んでみるべし。