オバサンは、精神的に吹っ切れた存在であり、外部の目を気にしない、そして育児から解放され、豊富な余暇時間を持っており、プチ・ブームの旗手として消費経済に大きな影響を及ぼしている。オバサンは、農業、軽工業、商業、介護、その他サービスなどの分野で働き手・担い手として労働環境を左右する。実に存在感がある。
「個人の選択の是非について口を挟まず、なぜそのような選択をしたかについての理由を考える」というのが経済学の流儀である。普段の私たちの生活は、まさに経済学的決断の連続である。本書は、この流儀にしたがって、センシティブな表現で、女性らしさの維持を放棄した「オバサン」と呼ばれる世代について、オバサン化の決定要因とは何か、その意味は、そしてオバサンの未来を考えたユニークな内容の本である。
著者によれば、オバサンとは、女性の更年期(エストロゲンの分泌の急激な減少)との関係から、その平均的年齢である45歳をオバサン化開始年齢とし、いわゆる高齢者と呼ばれるようになる65歳までの20年間の年齢層である。彼女たちがオバサンになるかならないかの選択は、生理学的にみた女性らしさの維持に費やすコストとその見返りとなるメリットを比較することから始まる。費やしたコストの方が大きければ、オバサンになる。オバサン化の契機は、とくに結婚し子育てが終了した女性にとって、女性らしさを発揮できる場が少なくなり、周囲から評価される機会が減少したときである。
結婚後の職場復帰がむずかしい、家事や育児と両立できないほど多忙である、(それなりに名声や高い所得を得ている男性と出会う機会が多く)結婚のチャンスに恵まれている、という理由からオバサン割合が少ないのが(専業主婦ではない)専門職である。最近、女性医師(天海祐希)を主役とした「Around40~注文の多いオンナたち~」というTVドラマが人気を集めている。40歳前後の世代をいい、略してアラフォーと呼ぶそうだ。解説によれば、彼女たちは1980年代に青春を過ごし、10代の終わりに男女雇用機会均等法が施行され、就職活動期はバブル経済の頂点で、「新人類」や「負け犬」と呼ばれて時代の象徴とされた世代である。本書は、彼女たちの選択、思考と行動についての理解を助けてくれる。
著者は、オジサン(男性の更年期世代)のことにも触れている。なんとも不甲斐ないオジサンは、婚姻関係という企業内取引により家庭での一切の仕事を任せ、亭主関白の裏返しである妻の独占事業を通してオバサン化に加担している。いずれにしろ、オバサンは身近にいる合理的な経済人なのである。本書は、そのことをはっきりと教えてくれる。