ティファニー・ブルーの表紙に、(書影では分かりにくいが)キラキラなホログラムの題字という装丁がクラシカルかつ、ポップ!そして目次を見ると、そこに並んでいるのは、十二才以下の女の子ならば誰もが知りたい事柄の数々。といっても、ディズニー・アイドルのスキャンダルやお金のかかるファッションの話じゃない。手相占いのやり方や、女スパイの歴史、レモネード・スタンドでお小遣いをかせぐ方法、女の子たちだけで出来る遊びやスポーツのルール……。
欧米ではトゥイーン、つまりティーンと子供の中間世代にあたる十代前半の女子は、ここのところ商業マーケットとして大きく注目されてきた。早くから商業主義やマスコミに踊らされ、貴重な少女時代を失っていく女の子たちを救うために、ただ少女であることを満喫できるように作られたのが、この本だ。ゲームの台頭により、外に出て遊ばなくなった男の子たちに、ワイルドで楽しい昔ながらの少年の遊びを教える本として大ヒットした『The Dangerous Book for Boys』の姉妹編に当たる。
『Dangerous Book』とこの『Daring Book』の関係性で思い出すのは、今から百年ほど前、20世紀に入ろうとするアメリカでやはり大ヒットした本、『アメリカン・ボーイズ・ハンディ・ブック』と『アメリカン・ガールズ・ハンディ・ブック』(共に朝日ソノラマで邦訳が出版され、現在は廃版)である。急速に都市化するアメリカで、子供時代を奪われつつある少年少女のために、自然との触れあいや独立心を育てる健やかな遊びを紹介したこの二冊の本を作ったビアード家の兄妹たちは、後に「ボーイ・スカウト・オブ・アメリカとガール・スカウト・オブ・アメリカを立ち上げることとなる。
しかし、『Daring Book』はただ『アメリカン・ガールズ・ハンディ・ブック』をなぞったノスタルジックな本ではない。ちゃんと21世紀の女の子たち向けにアップデイトされている。
一番の大きな違いは、スポーツが豊富なことだろう。釣り、ハンティング、自分たちでボートを作ってする船遊びと、アクティブだった『アメリカン・ボーイズ~』に比べて、『アメリカン・ガールズ~』のスポーツはローン・テニスくらいで、まだまだおしとやかだった。『Darling Book』のお転婆度はずっと高い。必修科目は空手にヨガ、ダブルダッチ、ローラー・スケートにバク転に側転!
バザーや家庭内のパーティなど、あくまでコミュニティ内で認められる範囲での活動が主だった百年前と比べると、女の子たちの社会性もぐっと広がった。『Darling Book』は自分たちの知らない世界に好奇心を持つことを、少女たちに促している。アフリカやラテン・アメリカの言葉や歴史を覚えたり、エスニックな料理にチャレンジするのもそのひとつだ。日本食でも、お寿司はもうポピュラーだから、納豆にトライしてみよう!なんて冒険を勧めている。
しかし、啓蒙的なところや、お説教じみたところはみじんもない。図案が美しく、チャーミングな提案が沢山載っていて、十二才までの女の子ならば、誰もがドキドキしながらこれを読んで、あれもこれも試してみたくなるだろうと思わせる。えんぴつで髪をアップにする方法、庭にテントを張ってのお泊まり会、花冠の作り方、怪談で友だちを怖がらせる方法。自分が小学生の時にこの本があったならば、寝るときも手放さなかっただろう。
異性やショッピングに関心を持つ前に、女の子たちが経験すべき遊びとときめき。それが奪われているという状況は、日本も欧米と変わらない。独立心と創意工夫の喜びを知る女の子たちの必読書として、『Daring Book』が邦訳されるといいなあと思うのだ。