さて、「現代の海賊」の話に戻る。
観光客をガイドして生活の糧を稼ぎながら、まず自分が見つけたUボートがどういう経過で今の場所に沈んだのかを調べ始めるのだ。海が荒れる冬の間は客が来ないので、その間アメリカからドイツやイギリスのUボート研究家、戦争史研究家を訪ねて、出撃記録を調べてアメリカの沖に沈んでいる潜水艦が何型のどういういう物で、どんな作戦に従事したのかを探してみようというわけだ。
他人が見つけた沈没船のものを横取りしようというような、けっこう「ワル」なのに、この調査を始めるあたりから、非常に真面目な態度で取り組むようになっていくのに心を動かされる。国のために戦った兵士への畏敬の念を「少し」持つようになったりするのが、いいのだ。
さて、専門家を訪ねて調べてみると記録には今Uボートが沈んでいる場所に出撃した作戦記録がない。
そんな馬鹿な! 現に私がこの目で見ている、といってもしょうがない。逆に、それは似ているけれどU ボートではないのではないかというようなことになる。
じゃぁ、沈んでいる船がUボートであることは確認するために、その艦の番号とか、その潜水艦を特定できる部品、あるいは船室の中の何か、一番わかりやすいのは航海日記か、艦長の名前などを手に入れればいいということになるのは必然。
よし、それをやって間違いなくUボートだと証明してやろうじゃないか、と決断する。しかし、自分たちだけではとうてい調査ができないと判断して、日頃反目しているダイバーたちにも呼びかけるのである。
そうすると、互いに罵り合うことが多い連中が、自分の国のために戦った誇り高い兵士たちのために、その潜水艦が確かにUボートであることを確かめ、静かに眠ってもらえるようにしてやろうじゃないかと、集まってくる。この辺、ノンフィクションなのにわくわくしてくる。そして、集まった「一癖もふた癖もある」ダイバーたちが、詳しい事情を知るわけだ。
もっとも重要なことは、目で確認したUボートは、一般にアクアラングを付けて潜れる深さより「少しだけ」深い場所にあるということ。
この「少しだけ」深い場所にあることが海の中では非常に大きな意味を持つ。掛け値なしの腕利きのダイバーが、非常に注意深く潜り、慎重に行動しないと危険な深さに「少し」だけ入った場所なのだ。
だから「あんたたちのように腕利きのダイバーに呼びかけたのだ」と声をかけた理由も伝える。
その深さだと、1日に一人一回しか潜ることができない。それぐらい体力に負担をかける深さ。しかも一回に潜れるのは20分程度。その上、海上に戻る途中で一時間近い休みを取らないと潜水病になって死んでしまうという過酷な条件なのである。このことについては読む者が「海に潜るというのはそういうことなのだ」と納得のいく説明と、危険性の解説をしっかりしてくれる。
潜れる時間の20分も、そこから潜水艦まで行く時間を引き、安全に戻るため途中に用意しておく酸素ボンベまで上昇する時間を引くと、潜水艦の周りでせいぜい10分ほどしか使えない。ということになる。
危険もあり、調べなければいけないことが多くあって、二人ずつ組を作って、日に何組と決め、個人個人は一度潜ったら日をおいて体力の回復を待ってから潜るという計画を立てる。
名乗りを上げてやってきてはみたものの、詳しく話を聞くと、怖じ気づいたのではなく、非常に危険だからと帰ってしまう者もいる。儲かりもしない仕事で命をなくすのはごめん、というような言い方ではなく、その危険性を冷静に考えての撤退を決断する者もいた。