お風呂でほどよく暖まり、もはやねむねむ、くにゃくにゃの赤ちゃんをベッドに横たえて、お布団をかけて電気をぱちん、三回ばかりとんとん叩いてやれば、たちまちあっさり夢の中、おやすみ、おやすみ、またあした……。
―などという安らかな夜が、たとえ現実にこの世に存在するとしても、少なくともわが家にはありえないことは確かです。無理やりパジャマに着替えさせて布団に詰め込んでも、寝る気皆無であんよバタバタ、あっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロ、電気を消せば「イヤイヤー!」と泣き声をあげる息子をどうにかなだめすかせて寝かしつけ、さて、明日の授業の準備をしなければ―と、参考映像作品の『悪魔のいけにえ』のビデオを再生すること10数分、いきなり背後から肩をポンと叩かれて振り向けば、そこには安らかに寝かしつけられたはずの2歳児がニコニコしながら立っていた暁には、もはや「ギャー!!!」と恐怖の悲鳴をあげるほかない……。
そんな阿鼻叫喚の夜々を経て、われわれが「これなら安らかな眠りにつける」との合意に達した厳選寝かしつけ絵本3冊をご紹介します。保護者の皆さまとお子さまの平和なナイトライフのためにお役立ていただければ幸いです。
まず1冊目は、1947年にアメリカ合衆国で刊行されて以来、世界各国で版を重ねつづけてきた定番中の定番です。
「おおきなみどりのおへや」の中でベッドに入っている子うさぎが、周囲にあるさまざまな物に「おやすみ」と呼びかけながら、やがて眠りにつくまでが描かれます。緑色の部屋に紫の暖炉、赤いじゅうたんと窓枠、黄色を基調とする家具類に、うさぎのおばあさんの青いドレス、といったさりげなく大胆な色使いも魅力的ですが、部屋の全景を描いた見開きのカラーページと、部屋の中にあるものたちを一つ一つクローズアップして描くモノクロのページを交互に反復する構成と、ページをめくるごとに微妙に暗くなる緑の色調の変化によって、目に楽しい鮮やかな色彩を使いながらも、夜の静けさと、ベッドに入った子どもが眠りにつくまでの穏やかな時間の流れを作り出し、そこに読み手を巻き込んでゆく、心にくい配慮が全編に行き届いています。
視点は緑色の子ども部屋の内部だけに固定され、全体的に静かで抑制された雰囲気の絵本ながら、よく見ると細かな変化や動きが周到に描きこまれていて、再読するごとにそこかしこに発見があり、くり返し読んでもなかなか飽きません。
ページをめくるたびに微妙に視界が変わり、窓からのぞくお月様の位置が移動してゆき、編み物を膝に椅子に腰かけているうさぎのおばあさんの足元で毛糸にじゃれついていた二匹の子猫が、次のページでは、おばあさんにたしなめられたのか、じゃれるのをやめて神妙に前足を揃えて座っていて、最後のページではおばあさんがいなくなった椅子の上で丸くなって眠りこんでいる、といったディティールの変化を目で追ってみるのも楽しみのうち。ことにわが子は、ページごとにあっちへこっちへと動き回っている小さな子ねずみを見つけては喜んでいました。
最後のページで、すっかり暗くなった部屋の中で、他のみんなが眠ってしまった後も、一匹だけまだ起きたまま、窓辺でじっとお月様を見上げている子ねずみのまなざしには、このまま寝てしまうのはなんだかもったいない、いつまでも起きていたい、という、眠りに落ちる直前の子どもの想いが託されているかのようです。