家族の一員として可愛がっているペットを、ある日、国が「差し出せ!」と命令してきたら、みなさんはどうするだろうか?
「そんな馬鹿なことが起こるわけはない」と一笑に付す方も多いかもしれない。
しかし60数年前の日本で、この「ペットの供出」が本当に行われたのだ。
今回は、戦争で引きさかれた人と動物の悲しいできごとをねばり強い取材でまとめあげたノンフィクションを紹介したい。
第2次世界大戦中、鉱物資源の乏しい日本は戦況が悪化してくると、兵器を作るためという理由で、国民に鍋や釜まで供出させた。このことはよく知られた事実である。
そして次に軍部は、「家庭犬を供出せよ」という驚愕の通達を出してきた。
供出の理由とは、
○寒冷地で戦う兵士のために毛皮を作る
○狂犬病をなくす
○空襲時に犬が暴れ出す危険を回避する
というものであった。
開戦初期から中期には、民間人が軍馬や軍用犬を育て、戦地へ華々しく「出征」させるということはあった。しかし負け戦が続き出すと、軍部は一般家庭のペットの犬まで供出させるという暴挙に出たのである。
あるところからこの情報を得た著者は、早く取材し後世に伝えなければという思いに駆り立てられた。なぜならペットの供出体験者はみな高齢だったからである。
著者は北海道から九州まで体験者の声を追った。しかしその取材は、人々の悲しい思い出を聞き出すつらいものであったに違いない。
愛猫を差し出した帰り道に、その子の断末魔の声を聞いた人、供出された犬・ねこを撲殺する役目を追った人、供出から犬を守った人など、それぞれの証言を読む度に、読者は滂沱の涙を流さずにはいられないだろう。
そしてこれらの証言から、あらゆる命を奪う戦争の恐ろしさを感じずにはいられない。
戦後半世紀以上が経ち、平和で豊かな生活を享受できる日本だが、本書を通して命の尊さや人々を悲しみのどん底に突き落す戦争の恐ろしさについて、親子で話し合う機会を持ってほしい。
物言えぬもの、弱い立場にあるものが安心して暮らせる世の中であってほしい――人と動物をテーマに多くのノンフィクションを手がける著者の、重みのあるメッセージを、多くの人が受け取ってほしいと願う次第である。