ミステリSFファンタジー純文学ホラー時代と、一口に小説と言っても、その中には様々なジャンルが存在する。多くの作家はそれらのいずれかにカテゴライズされる(あるいは、読者や評者・出版社が勝手にカテゴライズする)のだが、佐藤哲也は、安易なカテゴライズを拒む作家の一人である。『下りの船』は、そんな佐藤哲也の新作であり、どのジャンルに割り振ればいいか判断に困る作品である。
荒地の奥にあった村に、ある日突然兵士たちがやって来る。村人たちは強制的に村から連れ去られ、宇宙船に詰め込まれて、他の惑星に送られる。その惑星では、入植者たちが必死に働いていた。村から連れて来られた少年アヴは、保護者の老夫婦を亡くした後、過酷な労働に従事する羽目になる……。
粗筋からすると、本書は異星植民SFとして読み解くことができる。しかし本書は、より本質的・普遍的な、社会的問いかけをおこなってくるのだ。それは、「搾取される人々」の物語である。舞台となる星は資本主義であり、金持ちたちは労働者を散々酷使している。当然それに反発する人々はいるが、それは押し潰されたり、暴力となって発露したりする。そして様々な思惑と偶然が交錯する中で、本来敵対する必要のない人が、憎しみ合う必要のない人までもが、悲劇に巻き込まれていく。
現代にも通じる――というよりも社会の営みがあるところどこにでも付いて回る――搾取される側の生き様を、とても客観的に、冷静に、クリアに、しかしそれゆえに哀しく描き出している。視点をアヴに固定せず、さまざまな視点から多面的に社会の現実を写しとっているのも特徴で、本書は群像劇の様相も呈す。一見淡白な筆致の中に、実に様々なものが込められているのだ。傑作と評価したい。☆☆☆☆★。
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