ロマンティックに共感度★★★ ユーモア爆笑度★★★★ 爆弾爆発度★★★★★
大富豪の父の跡を継ぎ、新聞社を経営しながら、趣味のポロ教室に打ち込む、結婚したい男・ラウドン郡ナンバー1のモテ男ニック。彼は、ポロ教室にやってきた女性、ビリーに魅かれていた。ビリーには、チョコチップ・クッキーの匂いと満たされた女性が持つ安定感、そして、彼の周りのモデル体型で社交をそつなくこなす女たちにはない、柔らかな曲線美と率直さがあった。全身に“となりの女の子”と大書きしてあるような、大きなハシバミ色の目とほんのちょっと大きすぎる口の女性。欲望と同時に安らぎも感じる、それはかつてない感覚だった。
だが、彼女は二人の子持ちのバツイチの小学校教師で、身持ちが堅く、彼のそれまでの女たちのように遊べるタイプではない。そのうえ、ニックは今、ただでさえ、問題を抱える身なのだ。二人のいとこ、ディーディーとマックスの姉弟の、不本意ながら保護者を務めさせられているせいで。
ディーディーは愛すべき脳みそ空っぽ女で、数週間後に人気プロレスラーとの結婚を控えて(ちなみにこの5年間で4人の夫と別れている)なにかと暴走中。マックスは常軌を逸した天才少年で、動物保護運動にのめり込むあまり、ニックの屋敷を実験場として潜伏し、爆発破壊行動を繰り返している。
つまり、とても新たに真剣な恋愛などをする余裕はない。
――しかし困ったことにニックは、目標が難関であるほど燃えるたちだった。
一方、ニックに見込まれてしまったビリーの運命も急速に、それまでの平凡で穏やかな生活から離れつつあった。ニックがビリーに近づくために取った手段とは、やっかい者の一人、ディーディーの世話をビリーに押し付けることだったのだ。ビリーは、子供たちが夏休みで父親の元に遊びにいってしまった寂しさから、つい世話を引き受けてしまったものの、車を超高速で運転してぶつけたり、服を探すためにニックの屋敷に不法侵入したり、無理やりビリーとお気に入りのレスラーをくっつけようとしたりするディーディーの傍若無人な行動に振り回されっぱなし。文句を言おうとニックを捕まえれば、全然好みじゃないはずなのに、いつのまにか、ハンサムなだけじゃない、意外と気さくで苦労性な人柄や、その情熱に引き付けられて……。
『GQ』の表紙を飾ってもおかしくないほどハンサムで、地位、名誉、お金と、すべてにめぐまれたニックが、それまで思ってもみなかった家庭的な女性、ビリーと恋に落ちてしまう不思議。
<この女性を見ると、どうして一瞬でアドレナリンが噴き出すのだろう? そしてその次の瞬間には、疲れた魂が安らぐ気がするのだろう?>
反対にビリーのほうも、まるで住む世界の違うニックと付き合うなんてありえないと思っていたのに、気がつけば、ニックにもっとも向いていないであろう結婚相手として意識してしまう不思議。
<午後のそよ風がニックの髪を乱した。思わず手をのばして彼の額にかかる髪をかきあげそうになるのを、ビリーはぐっと抑えなければならなかった。穏やかで快く落ち着いた雰囲気――ビリーがすてきな結婚生活として思い描き、ニックと二人で築いていきたいと思っているのはそういうものだった。だが、これほど情熱的におたがいを求め合っている二人にそんな平穏さを望むことができるのだろうか?>
そんな二人の恋は、奇人変人のいとこたちを始め、デンジャラス・ビューティなニックの元婚約者の横槍や、なぜかビリーの家に大量発生したクモやゴキブリの群れ、ポロ教室の暴れ馬や、巨躯プロレスラーの誘惑、そして頻発する爆発事故等々に彩られて、困難必至の様相を呈します。
果たして二人が無事に結ばれる日はくるのでしょうか?
イヴァノヴィッチといえば、ユーモア&サスペンス&ロマンティック、そして、ところかまわぬ爆発が売り。バウンティー・ハンター(賞金稼ぎ)のステファニー・プラムが活躍するシリーズは、12冊の邦訳(本国アメリカではもう14作目。日本では1作目から9作目と番外編1冊が扶桑社文庫から、10、11作目は集英社文庫から出ている)を数え、先ごろ、ソフトバンク文庫からも『あたしはメトロガール』と、その続編『モーターマウスにご用心』が出るなど、各社ひっぱりだこの人気ミステリ作家です。ステファニー・プラムのシリーズ第1作『私が愛したリボルバー』は英国推理作家協会最優秀新人賞に輝いており、その実力は世界が認めるところ。出す作品出す作品が、アメリカのベストセラー・リストの上位にランクインする、ベストセラー・リスト常連作家でもあります。
この『気分はフルハウス』に始まるフル・シリーズは、ロマンス作家として、そのキャリアをスタートさせたイヴァノヴィッチが、ロマンス作家時代の作品に大幅に手を入れ、新装版として刊行したもの。イヴァノヴィッチのルーツが凝縮した、抱腹絶倒のロマンティック・サスペンスに仕上がっています。同シリーズは、第2作『気分はフル回転!』まで邦訳刊行されており、こちらは、『気分はフルハウス』で、ニックたちを悩ませた天才少年マックスが、成功したIT実業家として登場。大人になったマックスと地方新聞記者ジェイミーのロマンスが、相変わらずのドタバタ・コメディ&サスペンスたっぷりに愉しめます。