女流小説家や佐伯泰英に席捲されている時代小説。さてほかにはないのかとお探しのみなさんにおすすめなのが、今回ご紹介の三冊。レビュワーは時代小説読みでもある小玉節郎さん。
上田秀人『密封/国禁 奥右筆秘帳シリーズ』は、江戸城の書類決裁に関わる職種である奥右筆の立花併右衛門と、剣術に明け暮れる旗本の次男坊、柊衛悟を主役にした文庫本シリーズ。頭の切れる旗本と、剣の使い手である若者という、時代ものの必勝コンビが、徳川幕府の大事件に立ち向かう、読みどころ満載の時代小説です。
北重人『夏の椿』は2004年暮れの単行本が今年のはじめに文庫本化されたもの。荒唐無稽な剣法でバッタバッタ…といった展開とはかけ離れた、じっくり、しっとり書き込まれた味わいの濃い小説。江戸市中の日々も丁寧に描かれ、読後、悲しみと少しの喜びが心地よく残る、そんな雰囲気のある作品です。
夏の宵、ゆったりと腰を据えてお読みください。時代小説ファンなら、きっと大満足できるであろう三冊です。