村上春樹の貢献によるところが大きいということにはもちろん頷かざるを得ないが、相変わらずF・スコット・フィッツジェラルドが新しい読者を獲得し続けている。美しく光り輝く人生がやがて無惨なまでの末期へ至るフィッツジェラルド作品。ジャズエイジといわれる狂躁の1920年代の雰囲気に満たされたその作品の世界は、いまなお眩いまでの光りを放ち、本好きたちを魅了する。今回の特集はそのフィッツジェラルドに魅せられた3人のレビュワーが、各々のフェイバリット作品を1作品ずつ紹介する特集だ。山崎まどかさんと加藤信昭さんがそれぞれ『夜はやさし』『グレート・ギャツビー』を絶対にということだったので、フィッツジェラルドといえば短篇も外せないところであり、北條一浩さんには短篇『冬の夢』をピックアップしてもらった。これら3本の書評には、夢が次第に破綻へと突き進むフィッツジェラルドの魅力がそれぞれ余すところなく書かれている。そして3人のフィッツジェラルドへの愛しさもまたここぼれんばかりのレビューである。