そう、この作品『神と野獣の都』は、それこそ、『インディ・ジョーンズ』、『ジュラシック・パーク』、『ハリー・ポッター』あたりのラインで書かれているのだった。だが、それは果たしてイザベル・アジェンデでしか成しえない達成なのだろうか? 一方で、そのような感想は、むかしからの彼女の読者が、彼女の変化を拒んでいるにすぎないかもしれない。
いずれにせよ、気がついたらイザベル・アジェンデは、立派なエンターテイメント作家になっていたのだ。過度なわかりやすさは危険だ。だが他方で、わかりやすさとともに開かれる世界もたしかにある。いや、それ以前に、「2000人の読者に向けて書く小説」と「400万人の読者に向けて書く小説」を、並べて論じることはできない、それぞれ異なったルールと違った魅力が世界なのだから。
かつてのイザベル・アジェンデのなかから、もうひとりのイザベル・アジェンデが現れたことは間違いない。いや、またさらに新しい世界を手に入れた、ということか。
イザベル・アジェンデの四半世紀の作家活動は、まるで彼女の小説のように激しい変化に満ちている。
■イザベル・アジェンデ(Isabel Allende 1942年~)
ペルーの首都リマに生まれる。16歳で結婚、ジャーナリストとして活躍。1973年、叔父にあたるアジェンデ大統領が軍事クーデターで暗殺され、翌年亡命者として、(同じく南アメリカの)ベネズエラに移住。小説の出版は、40歳以降。日本語に翻訳された作品の数こそ少ないけれど、作品数も17作を数え、その多くは英訳されている。2006年、彼女はトリノの冬季オリンピックのオープニング・セレモニーの8人の旗手のひとりを務めた。
おもな作品:
『精霊たちの家』(原著1982年 国書刊行会)
『エバ・ルーナ』(原著1987年 国書刊行会)
『エバ・ルーナのお話』(原著1989年 国書刊行会)
『パウラ、水泡なすもろき命』(原著1995年 国書刊行会)
『天使の運命』(原著1999年 PHP研究所)
『神と野獣の都』(原著2002年 扶桑社ミステリー文庫)