以前、地球の公転速度は秒速30kmだ、というのを物理の入門書で読み、(計算上してみればこうなるのは当たり前であるのにかかわらず)すっかり驚いてしまった記憶がある。秒速30kmで動く何物かの上に乗っかっている自分を想像し、吐きそうになりながら思いました。まさに地球、宇宙の奇跡だな、こりゃ。それにしても相変わらず、オレって、なんにも知らないのね。(と、ここまで2分で書いて、もう3,600km行っちゃいましたよ)。
知らないくせに、(ここは小玉節郎さんと同じく)科学本は好きな分野。ただし、(一転、小玉さんにまったく敵わないところだが)どこかの分野をある程度は極めようなどという気持ちはまったくないので、入門書的なので充分。わかりやすいのが一番。小川洋子の『科学の扉をノックする』は、そんな自分にうってつけの一冊であった。平たくいうと、科学ダメな科学好きに向いている本、かな。でも、こういう人、いっぱいいるでしょ。
小川さんが自らの好奇心の赴くまま、様々な科学分野の第一線の研究者にインタビューし、その分野なりの研究内容について、初心者にもわかりやすく著したのが本書。「宇宙」から始まって、「鉱物」「核・DNA」などを経て最終章のテーマは「筋肉」。その「筋肉」の訪問先は阪神タイガースの続木敏之トレーニングコーチ。小川さんの阪神ファンぶりはつとに有名なので、ね、この趣味の延長線上というのが、素人っぽくっていいじゃないですか。
素人にとっての科学本の魅力って、もちろんその分野なりの(あくまでも基礎中の基礎ではあるが)思いがけない知識に触れられるということはもちろんだが、実のところは、忘れかけていた宇宙や生命の深淵なる神秘を思い起こさせられる、というところにあり、そこから得られるなんとも精妙な快い気分にあるのではないだろうか。この点、さすが小川さんにぬかりがあろうはずはない。各分野を突き詰めている研究者だからこそ発せられる、読んでいて思わず唸らされてしまう言葉がうまくちりばめられている。
筆頭は、渡辺潤一・国立天文台准教授による、次の「宇宙」的発言。
「宇宙のはじまりの頃には水素しかありませんでした。この段階ではまだ地球は絶対にできないですね。地球は岩石ですから。この第一世代が水素を燃料に燃やした灰が、窒素や、炭素や、珪素や、鉄になるんです。(中略)この星たちが爆発して欠片となり(中略)地球ができ、我々の身体もできたわけです。我々の身体の炭素や窒素は、50億年以上前に、どこかの星でできたものなんです」…人間が死ぬとそれは地球を循環し、地球が滅びる時、宇宙にばら撒かれ別のどこかの星で何らかの役割を果たす。…「結局、一度誕生した物質は、無にはならないのです」
人間は海からやってきたものと思っていたが、そのはるか以前、宇宙からやってきたのだ。この、なんという胸を締め付けられるスケール感!