この親綱、当時、同盟関係にあった織田家の家臣、木下藤吉郎秀吉に、京で評判という、手軽に沐浴ができ、ちょっとした遊山気分が味わえる風呂屋「柳風呂」に招待される。と、そこで、背中を流しに来た女人に、いつも夢に見る人魚とそっくりの美貌を見、驚愕、動顛。この「あこや」という没落公家の姫に、すっかり心を奪われてしまうのでありました。それを知った藤吉郎は、あこやを、「お気に召したのであれば、お連れくだされ」と、親綱に進呈を申し出る。
それからというもの、親綱は、あこやの願いをすべて叶え、愛欲三昧の毎日。
さて、その、結末は!?
そして、『夜光木』は、甲斐武田の信玄が没し、勝頼の代になって長篠の合戦に破れ、武田家の家運が傾き出した頃が舞台。その武田家の間諜をつとめてきた奈良田の里の衆の若者・似蔵は、掟に従って信長の暗殺を託され里を出奔し、安土城下の南蛮寺へ。さぁ、この若者の運命やいかに!?
この他、『木食行者』は、木下藤吉郎が木食行を行っている行者に助けられ、 九死に一生を得る話。
『家紋狩り』は、天下統一が成ったその豊臣秀吉の命により、菊紋、桐紋の使用を禁じた家紋狩りに出掛けた主人公が、恋も絡んで、南朝の落人部落の奇習や人々と、一命を掛けて戦うという話。
『ト伝花斬り』は、剣豪・塚原ト伝が南国薩摩で出会う、刀術、苗刀との真剣勝負。更に、『戦国かぶき者』、『子守唄』の八篇が収められています。
著者、火坂雅志氏は、この本のあとがきで、こんなことを書いています。
「私の中ではロマンチシズムの濃い、個性的な一冊になった。伝奇小説や剣豪小説を書いていた駆け出しのころから、戦国を舞台にした歴史小説に取り組むようになった最近まで、長年にわたる作者自身の濃縮されたエッセンスが詰まっている」と…。
確かに、本作は、伝奇ものや、剣豪ものに多い、戦闘の場面があちこちに出てきます。忍者同士の死闘はもとより、部落の民との暗闘、伊勢船という、室町から戦国にかけて、商用や軍用に使われた大型構造船で繰り広げられるバトル、そして、剣豪の真剣勝負。それがどれも臨場感たっぷり。又、それぞれの話に個性的なヒロインが出てくるのも嬉しく、大きな魅力になっています。ですから、その面白さ故、気がつけば一気呵成に読み終えておりました。エンターテイメントがいっぱい!読んで損なしの一冊です。