さて、いつにも増して極端に前置きが長くなってしまったが、今回のテーマは「サッカー」である。サッカーといえば、2010年に南アフリカで開催されるワールドカップ(W杯)に向けて、2008年秋から2009年夏にかけてアジア最終予選が行われる。これからW杯本番まで、またぞろこの国の「サッカー熱」が高まっていくことだろう。
それと同時に、居酒屋にも「サッカーがろくに分からないにわかサポーターが増えてねえ……」と、したり顔で話す自称サッカー通が増えるに違いない。顔に「日の丸」をペイントして群れる人たち以上に、私が苦手なのはそういう輩なのだが、私が4年に一度、普段はほとんど見ないサッカーを、一生懸命テレビで眺めているのは事実なのである。
しかし、である。サッカーというと、なぜいつも「分かる、分からない」という話になるのか。足でボールを蹴って相手ゴールに入れる競技は、野球を知らない人に「なぜボールを打ったら右に走るのか」を説明することを考えれば、百倍分かりやすいはずなのだ。
つまり、ルール上では十分に、私たち「にわかサポーター」はサッカーを理解している(オフサイドの概念が若干分かりにくいが、野球のインフィールドフライとどっこいどっこいだろう)。が、同じ観戦する立場でも、元高校サッカー部とかいう人の前に出ると、「サッカーはよく分からなくて」「素人なもんで」と殊勝に頭をポリポリかくのが正しい態度とされる。
私たちは(私だけか?)どうしてかくもサッカーを苦手視するのか、またそもそも一体、サッカーの「何」が分からないのか……と思って、遅ればせながら手に取ったのが、この本である。2008年3月に出版され、7月現在8刷を数えるベストセラーになっている。副題に「サッカーを戦術から理解する」とあるところを見ると、私同様、サッカーを「理解したい」と願う人がそれだけ多いのだろう。
メインタイトルの「4-2-3-1」とは、フィールド上に選手をどのように配置するかという、いわゆる「布陣」を数列で表現したものである。四つの数字はゴールキーパーを除いて、味方ゴールに近いほうに位置する選手の数から書くのが慣わしになっていて、この場合はバックスが4人、それより高い位置に2人、さらにその上に3人、相手ゴールに最も近いところにいる点取り屋のフォワードが1人、という意味だ。サッカーに詳しい人には何を今さら……だろうが、私のように4年に一度だけ盛り上がる「にわかサポーター」の中には、そういう基本的な仕組みさえ知らない人は少なくないはずだ。
では、サッカーにおいて布陣がどういう意味を持つのだろうか。布陣にはもちろん「4-2-3-1」だけではなく、「3-4-1-2」とか「3-3-3-1」とかたくさんある。ちなみに「3-4-1-2」は、2002年日韓共催W杯で日本代表を率いたフィリップ・トルシエ監督が好んで採用した布陣で、著者の杉山氏に言わせれば、守備的な要素が強い。一方、タイトルに用いられた「4-2-3-1」は攻撃サッカーの象徴として現在、世界で流行している布陣だ。
素人目には、最終ラインで自陣を固めるバックスの数が3人よりも4人のほうが守備的ではないかと思われるのだが、杉山氏によれば「3-4-1-2」の、2列目の「4」の両サイドが相手の攻撃に押され、最終ラインまで下げられるケースが多いのだという。つまり、「3-4-1-2」は往々にして「5-2-1-2」という、極端に自陣に選手が固まるアラインメントになってしまうのだ。無論その分、攻撃力は低下する。