昨年末に刊行されるや紙誌・ブログなどで絶賛され、四ヶ月以上たった今もAmazonのジャンル別ベストセラー・リストの上位にランクインし続けている、スティーグ・ラーソンの『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』(早川書房)。「スウェーデン発 驚異の三部作」というキャッチフレーズにふさわしく、二〇〇九年度翻訳ミステリ・ベスト1の呼び声も高い中、早くもシリーズ第二弾『ミレニアム2 火と戯れる女』(早川書房)のお目見えだ。
これも、凄いぞ。特に、型破りのヒロイン、リスベット・サランデルの魅力に夢中になった人には、たまらないだろう。なぜなら本書で、ついに彼女の謎に包まれていた過去が明かされるからだ、と筆を進める前に一言。まだ第一作目を未読の方は、なにはともあれ『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』を読んでみて欲しい。というのもシリーズ二作目である以上、レビューする際に、ある程度前作の内容に触れざるを得ないからだ。もちろんネタバラシはしないが、一切の先入観抜きにシリーズを頭から愉しみたい方は、ひとまずここで読むのを止めて、第一作読了後に戻ってきて欲しい。
さて、前置きも済んだところで、気になる内容だが--、
前作のラストから一年。スウェーデン全土を震撼させた経済不正工作“ヴェンネルストレム事件”の余燼がようやく収まりだした、新年のある日、『ミレニアム』編集部は、再び、国中を揺さぶる震源地になろうとしていた。フリー・ジャーナリストのダグ・スヴェンソンが、人身売買と強制売春に関する記事を売り込みにきたのだ。ダグは、顧客--その中には、警察官、検事、弁護士、裁判官、そしてジャーナリストもいる--に、インタビューし、『ミレニアム』誌上で実名で告発したいと申し出る。実現すれば、前回の事件に勝るとも劣らない大スキャンダルになることは必至。ジャーナリストとしての姿勢に共感したミカエルは、敢えて渦中の栗を拾うことを決断する。
ちょうどその頃、一年前にともに命がけで事件を解決する中で深い関係になったものの、何も告げずにミカエルの前から姿を消してしまったリスベット・サランデルが、密かにスウェーデンに帰国してきた。ミカエルに対する想いに苛立つ彼女は、巨万の富を得たこともあって、自分の気持ちを整理し、今後の生き方について考えるために、世界中を旅して回っていたのだ。新たな住まいを購入し、家具を整え、普通の人がするのと同じような生活を始めようとするリスベット。だが、そんな彼女の平穏な生活も長くは続かなかった。前作で、彼女に叩きのめされ、復讐心に燃える後見人のビュルマンが、偶然、リスベットの隠蔽された過去から、とんでもないネタを掘り起こしてしまったのだ。自らの周りに不穏な動きがある事を察知したリスベットは、行動を開始。一方、いまだに彼女のことが忘れられないミカエルは、職場を訪れた警察官の言葉に衝撃を受ける。なんと、彼女が三人を殺した凶悪犯として指名手配されたというのだ。果たして、リスベットの身に何が起きたのか。
前作が、複雑な入れ子構造で様々なタイプのミステリ--本格もの、社会派、サイコスリラー--の魅力を味あわせてくれる、トラディショナルであると同時にコンテンポラリーでもある作品であったのに対して、本作は一転してシンプルな構造となっている。だが、その分、物語としての力強さ、躍動感、緊張感、そして爽快感は、飛躍的に増加した。
リスベット・サランデルの生い立ちに何があったのか。彼女が最初の後見人であるホルゲルに、たった一度語った十二歳の時に起きた“最悪な出来事”とは一体何なのか。この謎を巡るストーリーを主軸に、リスベットが容疑者として追われることになる三重殺人事件の解明と、人身売買と強制売春の陰にちらつく謎の男“ザラ”の探索とが、三位一体となって、怒濤のクライマックスへと突き進む。
特に、第四部“ターミネーター・モード”に入ってからのリスベットの疾走感溢れる活躍は、読んでいて鳥肌が立つほど素晴らしい。たった一人で世界と戦うために、ミカエルに別れの言葉を残し反撃に出る、その決然たる態度の、なんと格好いいことか(ちなみにここ数年、小説に限らずアニメや漫画、ラノベでも、闘うヒロインが目白押しだが、少なくとも、翻訳ミステリの世界において、リスベット・サランデルと肩を並べられるのは、キャロル・オコンネルが生んだ『氷の天使』のキャシー・マロリー刑事くらいなものだろう)。
前作以上に、次回作が気になること必至の衝撃的なラストに、今から七月の第三作『The Girl Who Kicked the Hornets' Nest』の発売が、待ち遠しくて仕方がない。