『粘膜蜥蜴』のあとだといささか分が悪くなってしまうのだが、もう一作極北の小説を紹介したい。『フラグメント 超進化生物の島』である。題名からして、B級の臭いがぷんぷんするでしょう。平日の午後にひっそりと放映される吹き替え洋画の雰囲気だ。帯には「マイクル・クライトンに比肩する、バイオ・ハザード小説登場!」とある。たしかに、『ジュラシック・パーク』同様映画化してもらいたい作品である。しかし映像化するなら特撮は最先端のSFXではなくて、昔懐かしいストップモーション・アニメでお願いしたい。
リアリティーショーの一行がある孤島を訪れることから物語は始まる。科学者集団が船に乗り、秘境を旅して回るという企画なのだ(「あいのり」よろしく、カップルを成立させようとするプロデューサーも登場する)。そのヘンダース島は、十八世紀に発見されながら、以降は地理的な要因が災いして探査が途絶え、真の秘境として残された場所だったのだ。島に上陸した一行を出迎えたのは、悪夢の中に出てくるような怪物の群れだった。かろうじて生き残った植物学者のネル・ダックワースは、アメリカ政府が組織した調査団に身を投じ、ヘンダース島の生物たちが遂げた超進化の謎を探り始める。
あらかじめお断りしておくと、構成がぐしゃぐしゃで小説の体をなしていない作品である。無謀な集団が危険な場所に足を踏み入れて一人ずつ命を落としていく、というホラーの定石展開で始まりながら、すぐにプロットを放棄し、別の場所にいる登場人物に視点が移る、という奔放な(出鱈目とも言う)序盤の書きぶりだけでもそれは明らかだ。終盤には、主人公が無茶な行動をとるのだが、周囲の人間がそれをいさめようとしない(反対する科学者はいるのだが、何もできずにフェードアウトしてしまう)。これはなんらかのしっぺ返しフラグなのかしらと思っていると、そのまま話は終わってしまう。訳者あとがきに、作者を「クライトンの後継者」と呼ぶ声もあると紹介されているが、それは明らかに言いすぎ。クライトンに謝ったほうがいいと思います。
では、読むべき小説ではないのかというと、まったくそんなことはない。ハロルト・シュテュンプケ『鼻行類』、ドゥーガル・ディクソン『アフターマン』、レオ・レオーニ『平行植物』、もう一つおまけに筒井康隆『宇宙衛生博覧会』。こうした書名にぴんとくる人は、絶対に読んだほうがいい作品なのである。ヘンダース島の生物の奇怪な生態を、怪獣図鑑片手に特撮映画を観るような気持ちで読む。それが本書の正しい楽しみ方だ。ヒトデに似た円形の体を持つディスクアントにネコとクモの雑種に見えるヘンダース・ラット、猛獣スパイガーなどなど、次から次に珍奇な生物が登場する。SFとしての評価はよく判らないが(おそらくあまり期待できないはず)怪獣小説としてはとてもおもしろい。こういう作品が一年に一冊、いや贅沢を言わないから三年に一冊でも読めれば嬉しいのに。評価はあえて☆☆☆☆。ただし怪獣属性のない人には☆☆だと思います。
編集部より注:レオーニ『平行植物』(ちくま文庫、単行本は工作舎)、筒井康隆『宇宙衛生博覧会』(新潮文庫)は絶版です。ムムッ、ザンネン。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |