かりに「人気と実力を兼ね備えたミステリー作家は誰か」というアンケートを採ったとすれば、東野圭吾の名前がトップクラスに挙がることは間違いない。実力のわりにブレイクしない(とよく言われた)雌伏の時代を経て、九〇年代後半に『秘密』『白夜行』などのベストセラーを連発してからは——知名度と作品のクオリティの相乗効果で——東野は日本を代表するミステリー作家となった。その最新刊『カッコウの卵は誰のもの』は、二〇〇四年から二〇〇八年にかけて雑誌に連載された長篇サスペンスである。
元トップスキーヤーの緋田宏昌は、スポーツ科学研究所の柚木洋輔に思いがけない依頼を持ち込まれる。スキー選手である緋田の娘・風美が“Fパターン”の遺伝子を持つことが判明したので、親子の遺伝子パターンを比較したいというのだ。しかし緋田には了承できない理由があった。十九年前——妻の智世が出産したという病院で新生児が攫われており、そこに智世の出産記録は存在しなかった。いっぽう風美の会社には「緋田風美をメンバーから外せ」という脅迫状が届き、彼女が乗るはずだったシャトルバスが不可解な事故を起こす。代わりに重傷を負ったのは、攫われた新生児の父親・上条伸行だった……。
血の繋がらない娘を守ろうとする緋田は、柚木の追究を恐れながらも、真相を知るために亡き妻の過去を探っていく。やがて意外な事実が判明し、関係者たちの思惑が浮上することで、緋田は家族と血縁について想いを馳せる。これは技巧的なミステリーにして、家族をめぐる重層的なドラマでもあるわけだ。
ウィンタースポーツを扱った『鳥人計画』(角川文庫)、親の愛情をトリッキーに描く『レイクサイド』(文春文庫)などの読者であれば、本作に著者らしいモチーフをいくつも見出せるに違いない。主人公に大きな秘密を持たせ、複数の人物に調査を進めさせるプロットも著者の得意技。加賀恭一郎や湯川学のシリーズとは趣の異なる“東野サスペンス”の王道として、ここは☆☆☆☆と評価しておこう。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |
東野圭吾の2009年ミステリーの大ヒット作『新参者』の書評も収めていますので、ぜひお楽しみください。
『新参者』 レビュワー/酒井貞道 書評を読む